経済情報
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2010年10月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2010年11月作成
在アルゼンチン大使館

1 概要


(1)上院本会議において、年金増額法案が可決されたのに対し、フェルナンデス大統領は、拒否権を発動した。


(2)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、経済の好調、一次産品価格の上昇等により、銀行株等を中心に上昇を続け、また、月末には、キルチネル前大統領の逝去を受けて、政府が経済政策を変更するのではないかとの見方から更に上昇し、過去最高値を更新した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退、一次産品価格の上昇、為替の安定等により、引き続き下落し、月末には、政府が経済政策を変更するのではないかとの見方から更に下落した。
 外貨準備高は、中銀が外貨の流入に対し引き続きドル買い介入を行った結果、増加を続け、過去最高水準を更新した。


(3)9月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは10年の成長率は7.8%、11年は5.5%と予測されている。
 政府発表では、10月の消費者物価の伸びは前年同月比11.1%となり、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、公式統計と民間の推計との乖離は拡大した。
 9月の財政収支は、税収の好調等を受けて、黒字幅は前年同月比1,340.8%増となった。他方、総合収支は、3ヶ月ぶりに赤字に転落した。


(4)9月の貿易は、輸出が前年同月比41%増、輸入が同46%増となった結果、貿易黒字は同23%増となった。

 

2 経済の主な動き


(1)経済全般


 13日、上院本会議において、年金増額法案が可決された。なお、投票においては、賛成票35及び反対票35の賛否同数となったため、コボス副大統領(上院議長)(急進党)の議決権が生じ、同副大統領が賛成票を投じたことにより可決となった。
 14日、フェルナンデス大統領は、年金増額法案に対し拒否権を発動するための政令に署名した。同大統領は、「年金受給者を欺き、国家の破産を招く法案である」と述べ、改めて同法案を批判するとともに、「大統領として、亜が破綻することを許容するわけにはいかない」と述べた。また、上記上院本会議においてコボス副大統領が賛成票を投じたことについては、「(副大統領職の)不法占拠者である」と述べ、強く批判した。
 21日、下院予算等合同委員会において、国家統計局(INDEC)改革法案(INDECを経済省から独立した組織とし、職員の再編成、幹部役員の選出方法の変更等の改革を実施する法案)が審議され、上院可決案に修正を加えた上で同法案を承認する多数派の意見書が採択された。

 

(2)物価・賃金


 6日、連邦行政裁判所は、ガソリン等液体燃料の価格を本年7月31日の価格に戻すことを義務付ける経済省国内取引庁の決定について、これを無効とする判断を下した。
 14日、運輸庁は、国内線の航空運賃に係る参考料金及び最高料金をそれぞれ10%引き上げた。
 16日、ブエノスアイレス市内のタクシー料金が26%値上げされた。

 

(3)金融・財政


 5日、経済省及び中央銀行は、中銀利益について、月30億ペソのペースで国庫納付することに合意した旨報じられた。
 25日、造幣局の印刷能力が通貨需要に追いついていない旨報じられた。

 

(4)対外関係


 1日、アンデス開発公社(CAF)は、ヘネラル・ベルグラーノ貨物鉄道の改修・改善を目的とする対亜融資3.26億ドルを承認した。
6日、亜企業関係者約80名らを率いて訪独中のフェルナンデス大統領は、メルケル独首相と会談し、二国間関係、メルコスール・EU間協力等について協議した。その後の共同記者会見において、フェルナンデス大統領は、2008年の世界金融危機からの独及び亜の回復、財政危機に対処するためのG20による措置の重要性等について述べたほか、パリクラブ債務に関し、「亜は、全ての債務を返済する意志を有している。我が政権は、新たに債務を負うことはなかったし、また、資本市場にアクセスすることなく2003年以前の全ての債務を返済している唯一の政権である。(パリクラブ債務返済においてIMFの関与は不要であるという)亜の立場は明白である」旨述べた。なお、当地各紙報道によれば、メルケル首相は、IMFの関与が不可欠であると応じた由。
 7日、リプスキーIMF筆頭副専務理事は、記者会見において、亜国がIMF4条協議の受け入れを拒否していることに関して制裁の可能性を質した記者からの質問に答える形で、4条協議等はIMF加盟国の義務であるが、「これは他の加盟国に対して負う義務」であることから、「本件は、加盟国によって取り扱われるべき問題である」と述べた。
 11日、ドミンゲス農牧相は、中国政府が亜産大豆油の輸入制限措置を解除した旨述べた。
 18日、ウルグアイを訪問中のティメルマン外相は、第8回メルコスール共同市場審議会(CMC)会合及び第16回メルコスール議会に出席した。同外相は、メルコスール議会において、亜の本年上半期メルコスール議長国としての報告を行い、主要成果として、関税同盟としてのメルコスール強化、メルコスール関税コードの採択、対外共通関税の二重課税撤廃決定、メルコスール・EUパートナーシップ協定締結交渉の再開等を挙げた。
 20日、ドミンゲス農牧相は、訪亜中のロッシ伯農牧供給相と会談を行い、大豆、牛肉等両国の主要農産品の対中輸出等の強化のための農牧分野に関する戦略的協力協定に署名した。
 29日、ティメルマン外相は、訪亜中のヒメネス西外務協力相と会談し、メルコスール・EU貿易協定締結交渉等について協議した。

 

3 経済指標の動向


(1)経済活動全般


 8月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比8.5%増、前月比0.3%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
 10月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.1ポイント上昇の7.8%、11年は同0.4ポイント上昇の5.5%と予測されている。

 

(2)消費


(ア)小売


 9月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比20.0%増、前月比0.6%増となり、9ヶ月連続で前年同月比の伸びが20%を超えた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比17.9%増、前月比0.2%増となり、9ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。


(イ)自動車販売


 10月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比36.7%増、前月比4.5%減と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(3)工業生産・建設活動


(ア)工業生産


 9月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%増、前月比1.2%増と、引き続き好調であった。分野別では、自動車において大幅な伸びが見られたほか、基礎金属、金属機械等も好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、9月の工業生産は、前年同月比12.4%増、前月比0.7%増となった。
 9月の稼働率(INDEC発表)は、前月比3.2ポイント上昇の82.3%となり、2002年以降で初めて80%を超えた。多くの分野で上昇が見られ、食品、プラスチック及び機械金属を除く全分野で80%を超えた。
 REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.4ポイント上昇の前年比8.7%増と予測されている。


(イ)建設活動


 9月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比8.5%増、前月比0.4%増となり、引き続き好調であった。


(ウ)自動車生産


 10月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比17.5%増、前月比10.4%減と、前年に比べ、引き続き大幅に増加したものの、その伸び幅は縮小した。

 

(4)物価・雇用


(ア)物価


 10月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比11.1%、前月比0.8%の上昇となり、引き続き高い水準となった。飲食料が前月比1.4%の上昇と大きく上昇したほか、衣類及び通信・交通において同1.0%を超える上昇が見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、公式統計と民間の推計との乖離は拡大した。
 10月の卸売物価指数は、前年同月比15.1%、前月比0.9%の上昇となり、引き続き前年同月比の伸びが15%を超えた。
 REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比13.0%と予測されている。


(イ)雇用・賃金等


 9月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比25.48%増、前月比2.17%増と、引き続き上昇幅が拡大し、2009年1月以来20ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが25%を超えた。民間部門において、前月比の伸びが2%を超えるなど、引き続き高い伸びとなった。
 REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.52ポイント上昇の前年比25.76%増、10年の失業率は同0.1ポイント下落の7.8%と予測されている。

 

(5)金融


(ア)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、経済の好調、一次産品価格の上昇等により、銀行株等を中心に上昇を続けた。また、月末には、キルチネル前大統領の逝去を受けて、政府が経済政策を変更するのではないかとの見方から更に上昇し、29日には、過去最高値となる前月末比364ポイント上昇の3,007ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退、一次産品価格の上昇、為替の安定等により、引き続き下落した。また、月末には、政府が経済政策を変更するのではないかとの見方から更に下落し、29日には前月末比160ポイント下落の517ポイントと、2008年3月以来の水準にまで下落した。


(イ)為替レートは、中銀による積極的なドル買い介入等により、引き続き安定して推移し、29日には前月末比0.4センターボ(0.1%)ペソ高の1ドル=3.96ペソとなった。コールレートは、9.3%台で安定して推移した後、月初にわずかに上昇し、29日には前月末比0.07ポイント上昇の9.38%となった。民間金融機関預金残高は、29日において、前年同月末比26.7%増、前月末比1.6%増の2,389億ペソとなり、2ヶ月連続で前年同月末比の伸びが25%を超えた。対民間貸出残高は、29日、前年同月末比32.2%増と、引き続き伸び率が上昇し、2008年9月以来25ヶ月ぶりに30%を超えた。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前年同月比28.1%増と、2005年3月以来の高い伸びとなった。外貨準備高は、中銀が外貨の流入に対し引き続きドル買い介入を行ったことから、増加を続けた結果、過去最高水準を更新し、29日には前月末比8億ドル増の519億ドルとなった。
 REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.02ペソ高の1ドル=4.02ペソ、外貨準備高は同3億ドル増の524億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(ア)財政収支


 9月の財政収支(経済省発表)は、歳入が税収の好調等を受けて前年同月比53.0%増となり、一次歳出が同41.7%増となった結果、一次財政黒字は同1,340.8%増の32億ペソとなった。他方、総合収支は、1億ペソの赤字と、3ヶ月ぶりに赤字に転落した。なお、歳入には、中銀利益約30億ペソが含まれているとされ、これを除いた場合、一次財政黒字はほとんどなかったものと見られている。
 REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より7億ペソ増の227億ペソと予測されている。


(イ)税収


 10月の税収(経済省発表)は、前年同月比36.6%増の361億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同31.8%増の10,123百万ペソ(うち、国内分については同28.6%増、税関分については同35.6%増)、法人及び個人に係る所得税収が同25.8%増の6,165百万ペソ、輸出税収が同66.0%増の4,919百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同35.8%増の4,832百万ペソとなった。
 REMの平均では、10年の税収は前月の予測より29億ペソ増の4,029億ペソと予測されている。

 

(7)貿易


 9月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比41%増の6,401百万ドル、輸入が同46%増の5,334百万ドルとなった結果、貿易黒字は同23%増の1,067百万ドルとなった。貿易黒字の前年同月比がプラスになるのは、本年1月以来8ヶ月ぶりのことである。輸出については、全分野において増加が見られ、特に一次産品については同120%増となった。大豆等油糧種子、自動車、大豆粕等食品工業くず、トウモロコシ等穀物、大豆油等食用油、貴金属、ガソリン等が増加した。輸入についても、全分野において増加が見られ、乗用車が同103%増となったほか、燃料が同71%増となった。鉄鉱石、化学肥料、鋼材、電子回路、自動車部品、無線受信機用部品、航空機、トラクター、乗用車、医薬品、軽油等が増加した。
 REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より14億ドル増の684億ドル、輸入は同7億ドル増の545億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比18%減の139億ドルとなる)。

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