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概要
(1)債券交換の申込期限が15日間延長され、22日締め切られた。ブドゥー経済相は、約121億ドルの参加が得られ、参加率は約66%、2005年の債券交換と併せると92.4%になった旨発表した。
(2)2010年第1四半期の実質GDPは、前年同期比6.8%増、前期比3.0%増となり、2期連続で前年同期比の伸びがプラスになるとともに、その伸び幅は2008年第3四半期以降最大となった。
(3)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場に連動する形で、月央にかけて欧州の財政不安の緩和等から上昇したものの、月末に世界経済見通しに対する警戒感の高まり等から下落した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、税収の好調、欧州の財政不安の緩和、債券交換の見通しへの好感等から下落する場面も見られたものの、月末に上昇した。
(4)5月の消費及び生産については、引き続き回復の動きが見られた。市場見通しでは10年の成長率は6.0%、11年は4.4%と予測されている。
政府発表では、6月の消費者物価の伸びは前年同月比11.0%となり、引き続き高い水準となった一方、民間においては、公式統計は、引き続き実態を下回っているものと見られている。
5月の財政収支は、税収の好調等を受けて前年同月比229.7%増の黒字となり、総合収支も、4ヶ月ぶりに黒字となった。
(5)5月の貿易は、輸出が前年同月比25%増、輸入が同72%増となった結果、貿易黒字は同25%減となった。
2 経済の主な動き
(1)経済全般
1日、政府は、次期に収穫が見込まれる小麦のうち、300万トンについて輸出を許可する旨発表した。また,次期小麦収穫量を約1,200万トン超と予測した。
16日、フェルナンデス大統領は、ブエノスアイレス州カルエ市を訪問し、農牧セクターに向けて演説を行い、「生産者の収益拡大のため、国と農牧セクターとの間の協力体制を確立する」必要性を唱えたほか、原材料輸出のみに止まらず、商品の付加価値を追求していくよう生産者等に呼び掛けた。また、生産を促進するため、種子や燃料等を購入するための資金として、農地100ヘクタールにつき12万ペソの貸付を行う計画を発表した。
23日、下院本会議において、予算の歳出項目を首相の裁量により変更できる権限(通称「超権限(superpoderes)」)を廃止する法案が、賛成多数で可決され、上院に送付された。同法案は,首相に対し同権限を恒久的に付与する規定(国家予算執行管理法(2006年8月改正))を改正するものであり、資本支出等を減少させて経常支出を増加させる等の修正、及び歳入超過によって生じた資金の使途の決定を、議会の承認無しに行うことを禁じている。
28日、フェルナンデス大統領は、産業観光省に属する観光庁を観光省に昇格させ、メイヤー産業観光省観光長官を、新たに観光大臣に任命する旨発表した(産業大臣には、ジョルジ産業観光相が就任)。
(2)物価・賃金
3日、政府と公務員労組21団体は、計21%の賃上げで合意した。
4日、集合住宅側と集合住宅管理人労組(SUTERH及びAIERH)は、計28%の賃上げで合意した。
9日、国内線の航空運賃を10日以降15%値上げすることを認める省令が官報に掲載された。
22日、トラック業界とトラック労組は、計24〜25%の賃上げで合意した。
28〜29日、亜動植物衛生事業団(SENASA)職員が、賃上げ等を要求してストライキを行った。
(3)金融・財政
1日、ボッシオ国家社会保障機構(ANSES)総裁は、両院公的年金持続性保証基金(FGS)監督委員会に出席し、年金積立金の運用状況等について報告を行った。同総裁は、本年、ANSESがFGSを用いて政府に融資した金額は約9億ペソに上るほか、ANSESは返済期日が到来した国債約75億ペソを再融資した旨明らかにした。
2日、政府は、残存民間債務に係る債券交換の申込期限を15日間延長し、22日とする旨発表した。
7日、ブドゥー経済相は、4日時点における債券交換の参加率は54%に達した旨発言した。
7日、中銀理事会は、新たな外貨購入規制を承認した(8日施行)。同規制の具体的内容は、(ア)現金による外貨購入は月2万ドルを上限とし、これを超える外貨購入は、銀行口座の利用等が義務付けられる、(イ)年間25万ドルを超えて外貨を購入する者は、所得税等の申告書、貸借対照表(法人の場合)等を提出しなくてはならない、となっている。中銀は、本措置の目的を、現金による使途不明の外貨購入を制限することで、脱税やマネーロンダリングの防止に寄与することと説明しているが、外貨需要を抑制することが真の目的である、との指摘もなされている。
15日、訪日中のロレンシノ経済省金融長官は、債券交換に係る説明会を行い、債券管理会社等と会合を行ったほか、日本政府関係者と会談を行った。
16〜17日、ロレンシノ経済省金融長官は、イタリアにおいて債券交換に係る説明会を行った。
22日、債券交換が締め切られた。
23日、ブドゥー経済相は、債券交換に関し、約121億ドルの参加が得られ、参加率は約66%、2005年の債券交換と併せると92.4%になった旨発表した。同相は、参加率が、政府の見通しであった60%を超えたことから、「大変満足」であるとした上で、申込期限を再延長しなかった理由として、「『禿げ鷹ファンド』(が保有する債券)を除いた対象債券のうち、87.7%の参加率が得られた」ことを挙げた。また、同相は、フレッシュマネーに関して、「金利1桁台での起債は困難であるが、急いではいない」と述べた。さらに、同相は、パリクラブ債務問題に言及し、「同問題の解決に向けて取り組むだろうが、亜国にとってそれを行うのに最も相応しい時期を模索するであろう」と述べた。
29日、中銀理事会は、マネーロンダリング対策の一環として、金融機関が海外に開設する口座等に関する規制を強化する旨決定した。
(4)対外関係
11日、政府は、伯産衛生関連陶器に対し、アンチダンピング措置を適用することを決定した。
23日、訪伯中のブドゥー経済相及びジョルジ産業観光相は、マンテガ伯財務相、ジョルジ伯開発商工相らと会談を行い、産業統合促進事業に対する融資制度を導入することで合意した。同融資制度は、両国の企業が融資の対象となり、融資主体は、伯社会経済開発銀行(BNDES)並びに亜ナシオン銀行及び亜投資貿易銀行(BICE)とされる。
25〜27日、フェルナンデス首相は、カナダを訪問し、G20サミットに出席したほか、カナダの鉱山企業関係者との昼食会に出席した。
29日、EUメルコスールFTA交渉に係る会合が、ブエノスイアイレスにおいて開始された。
29日、フェルナンデス首相は、ラジオ番組の中で、政府による食料品輸入制限措置は存在しない旨強調した。
30日、EUメルコスールFTA交渉に係るEU代表団の代表を務めるマチャード欧州委員会通商総局次長は、政府による食料品輸入制限措置に関し、「貿易に直接影響を及ぼすほか、FTA交渉を進めるために必要な信頼感を損なう」と述べるとともに、WTOの物品理事会において本件について言及する予定であるとした。
3 経済指標の動向
(1)経済活動全般
2010年第1四半期の実質GDP(INDEC発表)は、前年同期比6.8%増、前期比3.0%増となり、2期連続で前年同期比の伸びがプラスになるとともに、その伸び幅は2008年第3四半期以降最大となった。政府消費が引き続き前年同期比プラスを維持し、民間消費も大幅に回復した。また、設備投資や建設の回復を受けて、固定資本形成が、2008年第3四半期以来6期ぶりに同プラスに転じ、大幅に回復した。輸出については、引き続き同プラスになり、輸入についても、固定資本形成同様、6期ぶりに同プラスに転じた。GDPデフレーターは同14.8%増、民間消費デフレーターは同10.5%増となった。なお、民間においては、実質GDP成長率は、より低かったものと見られている。
4月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比9.7%増、前月比1.3%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
6月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.8ポイント上昇の6.0%、11年は前月の予測より0.1ポイント上昇の4.4%と予測されている。
(2)消費
(ア)小売
5月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比37.4%増、前月比3.6%増と、引き続き大幅に回復し、4ヶ月連続で前年同月比の伸びが30%を超えた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比16.3%増、前月比2.3%増となり、5ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(イ)自動車販売
6月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比41.8%増、前月比13.7%増と、引き続き大幅に増加した。
(3)工業生産・建設活動
(ア)工業生産
5月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比10.2%増、前月比0.2%増と、引き続き大幅に回復した。分野別では、引き続き、自動車を始め、基礎金属、繊維等において大幅な伸びが見られた。なお、亜工業連盟(UIA)によると、5月の工業生産は、前年同月比14.3%増、前月比0.2%増となった。
5月の稼働率(INDEC発表)は、前月比2.8ポイント下落の76.7%となった。繊維、自動車、機械金属等を除いて、全体的な下落が見られた。
REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.7ポイント上昇の前年比8.0%増と予測されている。
(イ)建設活動
5月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比12.7%増、前月比0.6%増となり、3ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(ウ)自動車生産
6月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比46.6%増、前月比9.3%増と、引き続き大幅に増加した。
(4)物価・雇用
(ア)物価
6月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比11.0%、前月比0.7%の上昇となり、前年同月比の伸びが引き続き10%を超えた。飲食料において、前月比0.8%の上昇と、再び伸びの上昇が見られたほか、衣類及び娯楽において同1%を超える上昇となった。一方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
6月の卸売物価指数は、前年同月比15.2%、前月比0.9%の上昇となり、前年同月比の伸びが引き続き15%を超えた。
REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比12.6%と予測されている。
(イ)雇用・賃金等
5月の給与指数(INDEC発表)は、前年同期比20.33%増、前月比1.98%増と、引き続き上昇幅が拡大した。民間部門においては、正規雇用・非正規雇用ともに、前月比の伸びが2%を超えた。
REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.69ポイント上昇の前年比22.24%増、10年の失業率は前月の予測と同じ8.3%と予測されている。
(5)金融
(ア)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場に連動する形で、月央にかけて欧州の財政不安の緩和等から上昇し、2,300ポイント台をつける場面も見られたものの、月末に世界経済見通しに対する警戒感の高まり等から下落し、30日には前月末比19ポイント下落の2,185ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、800ポイント台で推移した後、税収の好調、欧州の財政不安の緩和、債券交換の見通しへの好感等から下落し、21日には758ポイントをつけたものの、その後上昇し、30日には前月末比9ポイント上昇の816ポイントとなった。
(イ)為替レートは、月初にペソ高になったものの、中銀による積極的な介入等を受けて、ペソ安となり、30日には、前月末とほぼ同じ1ドル=3.93ペソとなった。コールレートは、月初に小幅で上昇した後、安定して推移し、30日には、前月末比0.06ポイント上昇の9.31%となった。民間金融機関預金残高は、30日において、前年同月末比22.7%増、前月末比3.7%増の2,184億ペソとなった。対民間貸出残高は、30日、前年同月末比17.1%増となり、引き続き伸び率が上昇した。外貨準備高は、480億ドル台で推移した後、中銀による介入等を受けて上昇し、30日には、前月末比2億ドル増の492億ドルとなった。
REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測と同じ1ドル=4.15ペソ、外貨準備高は前月の予測より3億ドル増の509億ドルと予測されている。
(6)財政
(ア)財政収支
5月の財政収支(経済省発表)は、歳入が税収の伸び等を受けて前年同月比42.5%増となり、一次歳出が同35.3%増となった結果、一次財政黒字は同229.7%増の30億ペソとなった。また、総合収支は、26億ペソの黒字となり、4ヶ月ぶりに黒字となった。
REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より11億ペソ増の156億ペソと予測されている。
(イ)税収
6月の税収(経済省発表)は、前年同月比39.4%増の373億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同37.1%増の9,938百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同46.1%増の9,170百万ペソ、輸出税収が同35.2%増の4,225百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同34.6%増の4,133百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同22.8%増、税関分については同46.5%増となった。
REMの平均では、10年の税収は前月の予測より50億ペソ増の3,847億ペソと予測されている。
(7)貿易
5月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比25%増の6,479百万ドル、輸入が同72%増の4,574百万ドルとなった結果、貿易黒字は同25%減の1,905百万ドルとなった。輸出については、一次産品が同94%増、工業製品が23%増となった一方、農牧製品及び燃料については減少した。大豆等油糧種子、自動車、トウモロコシ等穀物、銅鉱石、貴金属、液化天然ガス等が増加した一方、電力、鋼管等が減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、燃料が同182%増となったほか、消費財を除く分野において軒並み同70%前後の増加が見られた。
REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より1億ドル減の659億ドル、輸入は同7億ドル増の516億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比15%減の143億ドルとなる)。
(8)国際収支
2010年第1四半期の国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が2,638百万ドルの黒字(前年同期比1,323百万ドルの黒字減)、所得収支が2,586百万ドルの赤字(同428百万ドルの赤字増)等となった結果、経常収支は365百万ドルの赤字となった。経常収支が赤字となるのは、2001年第3四半期以来8年2四半期ぶりのことである。また、資本収支は、民間部門等における資本逃避の沈静化を受けて、2,770百万ドルの黒字となり、2008年第1四半期以来2年ぶりに黒字となった。
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