アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年12月2日

2019年11月の経済情勢

 
概要
   (1)1日,トランプ米大統領はフェルナンデス次期大統領に電話で祝意を伝えた。フェルナンデス次期大統領側の発表によると,トランプ大統領は「偉大な勝利をお祝いする。我々はその様子をテレビで見ていた。あなたはファンタスティックな仕事をした。すぐに知り合えることを期待する。あなたの勝利は,世界中で語られている。IMFにはあなたと一緒に仕事をするように指示をした。気軽に電話して欲しい。」とコメントした。
   (2)18日,フェルナンデス次期大統領はIMFのゲオルギエバ専務理事と電話会議を行い,「次期政権は持続可能な経済プランや我々が履行可能な(債務の)支払いに関する合意を提案できる状態にある。しかし,これ以上の財政的調整は無しにだ。」と伝えた。ゲオルギエバ理事長の「次期政権は,予算の範囲内で政策を行う必要がある」旨の発言に対しては,「財政的な実現可能性の重要性を理解しており,これについて説得される必要はない。しかし,現在のアルゼンチン経済の状況を考慮すると,さらなる(財政的な)調整を実施することが難しいということを,先に述べておくことが私の義務である。」とした。
 
1 経済の主な動き(報道ぶり等)
   (1)1日,ガソリンの+5%値上げ。石油会社は年末に向けさらに20%の引き上げを要求:ガソリンの値上げは財務省エネルギー部門により承認済みで,さらにバイオ燃料と原油価格の引き上げも認めた。憶測が高まるアルベルト・フェルナンデス次期政権下における価格凍結の可能性を視野に,石油会社は今後年末までに+20%の価格調整の承認を要請している。
   (2)1日,トランプ米大統領はフェルナンデス次期大統領に電話で祝意を伝えた。通訳を介した会談は,和やかな雰囲気の中,15分程度行われた。この電話会談は,米側ではワシントンの直接のイニシアティブの下,プラド大使率いる当地米大使館が,アルゼンチン側ではアルベルト次期大統領の信任が厚いホルヘ・アルグエジョ元駐米大使が調整した。フェルナンデス次期大統領側の発表によると,トランプ大統領は「偉大な勝利をお祝いする。我々はその様子をテレビで見ていた。あなたはファンタスティックな仕事をした。すぐに知り合えることを期待する。あなたの勝利は,世界中で語られている。IMFにはあなたと一緒に仕事をするように指示をした。気軽に電話して欲しい。」とコメントした。
   (3)6日,メキシコ訪問中のアルベルト・フェルナンデス次期大統領は債務再編交渉の方針について言及した:「これ以上アルゼンチンの対IMF債務を増やすわけにはいかない。IMFは自分の行ったことに責任を持ち,見直しを行うべきだ。マクリ大統領は支払いを不可能と発表しているが,我々はそれを達成しようと思う。(IMFが禁じる)元本削減ではなく,アルゼンチンを再生させ,生産・輸出の拡大を通してドル建て債務を支払うためのドル調達を可能にするための交渉を行う。」とTNのインタビューに対し語った。
   (4)ネウケン州政府は石油会社及び組合とバカ・ムエルタ油田の非在来型炭化水素鉱床における労働者育成の強化に1400万ペソの投資協定を結んだ: ネウケン州政府と,組合,同鉱床で開発を行うYPF, Shell, Total Austral, Chevron , Pluspetrolなどの石油会社の間で協定が結ばれた。州政府の声明によると,同協定によりAñelo専門技術教育インスティテュートの顧問委員会が実施する,バカ・ムエルタ開発とエネルギー産業に特化した授業計画・キャリア育成の強化を図る。
   (5)ブラジル農務省は今週,米国産小麦に無関税輸入枠75万トンを適用したと発表した。ボルソナーロ伯大統領は,アルゼンチンのフェルナンデス次期大統領との対立から,穀物輸入におけるアルゼンチン依存を断ち切り,米国に対して輸入割当の拡大を要請する計画。ブラジルは年間700万トンの小麦を輸入しており,そのうちの85%がアルゼンチンから輸入されている。単に隣国というだけでなく,アルゼンチン国産小麦の質の高さがその理由。なおブラジルが米国と合意した無関税枠75万トンは,ブラジル国内の小麦消費の6%にも満たない。またメルコスール域外からの穀物輸入には10%の対外共通関税が課税される。「今回ブラジルが米国に対し適用した無関税枠が,今後発展し得る戦略的政策の始まりであるのではという懸念は否めない」とアルゼンチン小麦産業連盟のDiego Cifarelli 会長はコメントした。
   (6)財務省は「債務の再リプロファイリング(返済期限延長)」に関して言及は控え,12月10日までは返済をすべて行うと伝え,アルベルト・フェルナンデス次期政府経済顧問の間で言及されていた年末までに返済期限を迎える債務の「再リプロファイリング」の可能性を完全に否定した。政府データによると,11月~12月の間にペソ建て債を合計520億ペソ,国債を560億ペソ支払わなくてはならない。
   (7)中国における第2回国際輸入エキスポには130カ国から2500の展示団体が参加し,中国の15万にも及ぶ輸出事業者に対し各国の生産品を紹介した。同イベントには,アルゼンチンからは牛肉促進インスチチュート(IPCVA) が輸出事業者20社とともに参加した。
   (8)米国のMSCI株価指数は,金曜日アルゼンチンの3銘柄をエマージェンシー・マーケット指数から除外し,これらの株価が大幅下落した。除外された銘柄はBBVA Argentina, TGS及びPampa Energía。
   (9)生産労働省の正式データによると,マクリ政権下で給与所得者(社会保険料を支払う正規従業員(約900万人))の購買力は2015年12月の水準に比べ20%低下。特に2016年と2018年に著しく低下。2017年には一度回復を見せていた。
   (10)世論調査において,アルゼンチン国民にとって現在の最大の懸念はインフレではなく失業。クラリン紙はMarketing & Estadística (M&E)のアンケート調査データを入手した。11月6日~11日にオンラインアンケート1241件を対象に実施された調査。まず,「アルゼンチンの最大の問題は何か,3つ挙げよ」という質問に対し,「労働,雇用,失業」が49%を占めた。また,インフレと答えたのが42%,汚職と答えたのが29%となった。次に「国家債務」(28%), 「司法制度」 (27%) 「治安・不安全」 (27%)と続いた。アンケートは一人が複数(3つの答え)返答可能であるため,合計は100%を超える。M&Eインタビューによると,アンケート対象者の支持政党により大きく返答(懸念対象)が異なった。「労働,雇用,失業」と答えたのは全体の49%だが,アンケート対象者の中でもキルチネル派支持層のみに注目すると,その割合は63%にまで上昇する。一方マクリ支持層にとって最大の懸念は「汚職」で53%となった。
   (11)18日,フェルナンデス次期大統領はIMFのゲオルギエバ専務理事と電話会議を行った。フェルナンデス次期大統領は「次期政権は持続可能な経済プランや我々が履行可能な(債務の)支払いに関する合意を提案できる状態にある。しかし,これ以上の財政的調整は無しにだ。」と伝えた。フェルナンデス陣営は,同日プレスリリースを発表しており,「IMF専務理事との電話会談を高く評価する。」としている。また,フェルナンデス陣営の報道オフィスは,本会談について,「フェルナンデス次期大統領は,新政権の経済プログラムの主たる目的は,達成可能かつ債務返済のための成長を回復できるような計画の中で実現されるということを明確にした。」との見解を示している。またゲオルギエバ理事長の「次期政権は,予算の範囲内で政策を行う必要がある」旨の発言に対しては,「財政的な実現可能性の重要性を理解しており,これについて,(ゲオルギエバIMF専務理事から)説得される必要はない。しかし,現在のアルゼンチン経済の状況を考慮すると,さらなる(財政的な)調整を実施することが難しいということを,先に述べておくことが私の義務である。状況は大変複雑であり,マクリ政権下で実施された調整(緊縮財政)はぞっとするようなものであった」と同プレスリリースを通して強調し,また,「アルゼンチンは,特に難しい状況にあるものの,我々はアルゼンチンの問題を解決し,IMFや残りの債権者に対する負債の返済を可能とするための計画を提案する姿勢である」と再確認した。さらに,フェルナンデス氏は,「貧困の削減と飢餓の除去」について,IMFとの見解の一致を祝した。
   (12)ゴンドラ法は,中小企業の市場参入を促し,価格競争を通じて値下げに繋げる事が目的として,一つの商品棚(オンラインショップを含む,以下同)に対し,メーカー一社につき陳列スペースは最大30%までとする,一つの商品棚で一つの商品に対し,最低5つのメーカー品を揃える,一つの商品棚に対し,最低25%は国産・中小企業の商品を陳列する等の措置を定める。次期政府は同ゴンドラ法を推進しており,特に次期社会開発省大臣と噂されるDaniel Arroyo氏が飢餓を阻止する計画の基,同法案を推進している。同法について,専門家は遵守するのは難しいとし,スーパーマーケット経営者らは訴訟問題に発展させる動き。エコノミストや卸業者らは,同法令が可決されれば,コスト・価格上昇や結果として人員削減に繋がると警告している。同規制対応にはコストがかかり付加価値が減少する上,そのコストは最終的に流通,卸業者,消費者,生産者が負担する事となると指摘されている。
   (13)19日,マルティン・グスマン氏は国連貿易開発会議(UNCTAD)で2年間の債務返済停止,IMF融資の返済拒否を提案。(次期経済大臣とも噂される)ニールセン氏はこれを認めないと明言した。グスマン氏は,ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授の研究協力者で,債務問題に精通しており,具体的には「アルゼンチンが債務の持続性を回復させるためには,民間債権者から今後2年間の債務支払いの停止について合意を得ること,債務返済期限の延長,金利のリプロファイリング,IMF融資枠の残り分の支払いの拒否が不可欠だ」と,国連本部があるスイスのジュネーブで発言を行った。フェルナンデス次期大統領側近は債務再編に関する同氏の知識と名声を高く評価しており,すでに相談役として何度か意見を求めたこともあるとされる。
   (14)統領選後の一時的な価格凍結が終焉し食品価格の+15%までの引き上げが行われた。ここ10日間で食品,洗剤類,パーソナルケア商品など購買頻度の高い400品目が5~15%までの値上げとなった。大統領選の次の日,スーパーマーケットチェーン2社は400品目に関して価格の凍結を約束していた。
   (15)26日,フェルナンデス次期大統領は(マクリ政権が取り付けた)合計570億ドルのIMF融資枠のうち残る110億ドルの融資支払いをIMFに要請しないと発表した。市場では,IMFから好感を得られないような経済・財政計画の可能性に対する懸念が高まる。
 
2 経済指標の動向
(1)経済活動全般
 10月の経済活動指数(INDEC発表)は,前年同月比0.9%減,前月比1.9%増となった。
 
(2)消費自動車販売
  11月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は,前年同月比30.8%減となった。
  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 2019年計
台数 28,469 27,947 36,501 39,255 38,021 26,876 27,204 22,900 341,323
前年比 ▲60.9% ▲63.1% ▲34.1% ▲15.8% ▲27,2% ▲37.0% ▲26.9% ▲30.8% ▲46.1%
 
(参考)11月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 2019年計
台数 20,532 21,834 17,401 19,913 18,856 21,568 19,339 17,921 205,283
前年比 3.2% 1.9% ▲24.0% ▲21.5% ▲32.8% ▲7.6% ▲12.2% ▲31.2% ▲16.7%
 
(3)工業生産・建設活動
)自動車生産
  11月の自動車生産台数(ADEFA発表)は,前年同月比26.4%減となった。
  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 2019年計
台数 30,294 30,280 23,916 21,646 30,815 27,687 31,834 27,099 300,263
前年比 ▲33.9% ▲35.3% ▲39.3% ▲47.8% ▲37.5% ▲25,7% ▲17.7% ▲26.4% ▲32.7%
 
)工業生産
  10月の工業生産指数(INDEC発表)は,前年同月比2.2%減となった。
 
(ウ)建設活動
  10月の建設活動指数(INDEC発表)は,前年同月比9.5%減となった。
 
(4)物価
  11月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は,前月比4.3%,前年同月比52.1%の上昇となった。
11月の卸売物価指数(INDEC発表)は,前月比5.4%,前年同月比54.8%の上昇となった。
 
(5)金融
  (ア)Merval指数(株価指数)は,11月末には,前月末比1.4%減の34500.2ポイントとなった。
また,EMBI+指数は,11月末には前月末比18ポイント減の2262ポイントとなった。
  (イ)11月末の為替レートは,前月末比0.2%ペソ安の1ドル=59.86ペソであった
コールレートは,11月末には54.1%となった。対民間貸出残高は11月末には24,748億ペソとなった。
外貨準備高は,11月末には前月末比5.1億ドル減の437.7億ドルとなった。
 
(6)財政
(ア)財政収支
  11月の財政収支(財務省発表)は,歳入が前年同月比56.5%増,一次歳出が同42.6%増となった結果,基礎的財政収支は64.0億ペソの赤字となった。また,総合収支は,736.7億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
  11月の税収(財務省発表)は,前年同月比58.2%増の4748.7億ペソとなった。
 
(7)貿易
  11月の貿易(INDEC発表)は,輸出が前年同月比9.4%増の5,854 百万ドル,輸入が同21.9%減の3,409百万ドルとなった結果,貿易黒字は2,445百万ドルとなった。