アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和元年6月4日

2019年4月の経済情勢

<概要>
(1)INDEC(国家統計局)の発表によると、3月の物価上昇率は4.7%と今年に入って最高の数値を記録した。過去12か月間の累積インフレ率は54.7%となり、マクリ政権誕生以来最悪となった。
(2)17日、政府は消費活動を活性化させるため、主要品目の価格凍結、公共サービス料金の年内の値上げ中止及びANSESによる貸付制度新設等の「経済・社会措置」を発表した。
(3)29日、中銀は今年の年末まで固定していた為替バンド制非介入ゾーン上限(1ドル=51.45ペソ)を下回る場合でも、今後ドル売り介入できる方針をする旨発表した。

1 経済の主な動き等
(1)3月29日、議会に中銀憲章改正法案が提出された。金融当局である中銀の機能と目標を管理する法案であり、中銀政策の主軸にインフレ対策を位置づけているが、その他、中銀総裁、副総裁、理事選出制度の規定があり、アルゼンチン国籍を持たなくても中銀執行部役員に選出され得るとしている。また、国家金融政策制定権を中銀理事会から委員会へ移行させる提案が含まれている。
(2)1日、中銀は、金融政策決定委員会を開き、3月、4月もなお高インフレが予想されるとする予想を発表し、さらに為替のボラティリティーを抑え、投資家に対し予測可能性を保証するため、4月中のLeliq(短期中銀債)金利の最低金利を62.5%にするとした。
(3)政府は、中国及びブラジル産鉄鋼の国内市場における占有を避けるべく、国内鉄鋼生産保護する方針。ガス生産に向けた補助金制度の変更(1月下旬に財務・エネルギー省が発表したバカ・ムエルタ油田ガス開発補助金の大幅カット)を受け法廷に訴える構えを示していたテチント・グループと和解する形となった。
(4)IES(部門別経済調査)コンサル会社の農業部門調査データによると、今シーズン農作物収穫量は1億3960万トン(前収穫期比で+23.1%)となり、前々収穫期(2016-2017年)の記録も1.6%上回った。大豆収穫は43.7%の増。
(5)5日、IMFは第3回目の審査を終え、アルゼンチン向けに108憶ドルの融資枠を承認。インフレに改善がみられない現在の状況には期待外れと警告し、年末に赤字ゼロ目標を達成するためにはより大幅な財政調整が必要かもしれないと指摘した。
(6)8日、政府は官報にて社会保障制度向けに新たな資金131億ペソを投入する法令を発表した。不景気を受けスト計画を立てていた労組及び労働総同盟(CGT)との摩擦を解消する目的。
(7)8日、フランス開発庁(AFD)は、BICE(貿易投資銀行)に対し1億ユーロ(約1億1500万ドル)の融資を承認し、アルゼンチン国内の大・中小企業が実施する再生可能エネルギー開発及び省エネ化計画を支援する。ADFにとって初となる亜銀行向け融資融資(ソブリン保証なし)。元生産労働大臣でBICE総裁のフランシスコ・カブレラ氏と在アルゼンチンAFD事務所長のジュリエット・グルンドマン氏が合意に署名した。グルンドマン氏は「融資期間は15年間(12年+猶予3年)。金利は事業計画にもよるがLIBOR+500~800ベーシスポイント」とコメント。
(8)15日、政府は6000万ドル/日の売り入札を開始した。12月6日まで毎日継続的に実施されるドル入札の開始によりドルは1ドル=42.65ペソに下落。財政上のペソ需要を賄うものであるが、同時にドル高抑制を目指す。
(9)16日のINDEC(国家統計局)の発表によると、3月の物価上昇率は4.7%と今年に入って最高の数値を記録した(1月インフレ率2.9%、2月インフレ率3.8%)。ドル高と公共料金の引き上げが物価上昇を助長したとされる。過去12か月間の累積インフレ率は54.7%となり、マクリ政権誕生以来最悪となった。
(10)16日、米国の海外民間投資公社(OPIC)の投資委員会は、7年ぶりの対アルゼンチン投資として、Plaza Logística SRL 社による大ブエノスアイレス首都圏ロジスティックパーク建設及び 拡張工事(176.000m2)に対する投資計画を承認した。
(11)16日、政府はインフレ対策として対ドル・レートの上限を1ドル=51.45に固定することを発表した。これを超えた場合、一日につき1億5000万ドルまでの売り介入が可能。
(12)17日、政府は消費活動を活性化させるための「経済・社会措置」を発表した。政府によると、今回の措置は「主要企業の合意の下、少なくとも6か月間(大統領選5日前の10月22日まで)は主要60品目の価格を凍結させ、さらに公共サービス料金に関しては年内の値上げを禁ずる」というもの。さらに政府はANSESによる貸付制度を新設するほか、住宅ローン「Progrearプラン」新規募集等を行う。
(13)25日、ドルは1ドル=47ペソで取引され、カントリーリスクは一時1000ポイントを超えた後935ポイントに落ち着いた。政治経済に対する不信により、国外の投資家によるアルゼンチン株売りが進んでいる。最終的に1ドル=46.09ペソまで戻し、カントリーリスクは935ポイントに落ち着いた。
(14)29日、中銀は今年の年末まで固定していた為替バンド制非介入ゾーン上限(1ドル=51.45ペソ)を下回る場合でも、今後ドル売り介入できる方針とする旨発表した。金融政策決定委員会(COPOM)は声明を発表し、「ここ数日間の著しい為替変動をうけ、金融政策委員会は、今後積極的にペソの量を減らし当該市場の適切な機能を取り戻すため、中銀はさらなる金融収縮策を取るべきと判断した」「売り介入の額と頻度に関しては市場の動向次第とする」としている。

2 経済指標の動向
(1)経済活動全般 
 3月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比6.8%減、前月比1.3%減となった。
 
(2)消費:自動車販売
 4月の自動車販売台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)は、前年同月比60.9%減となった。
  9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 2019年計
台数 42,628 37,207 33,095 48,418 30,038 30,404 33,708 28,469 122.619
前年比 ▲44.1% ▲50.0% ▲57.9% ▲46.4% ▲53.4% ▲58.8% ▲57.6% ▲60.9% ▲57,8%
 
 (参考)4月の自動車輸出台数(自動車生産者協会(ADEFA)発表)
  9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 2019年計
台数 23,336 22,028 26,048 22,947 7,403 19,431 21,085 20,532 68.451
前年比 13.5% 4.0% 36.2% 26,1% ▲28.9% 1.0% ▲23.9% 3.2% ▲11.4%
 
(3)工業生産・建設活動
)自動車生産
 4月の自動車生産台数(ADEFA発表)は、前年同月比33.9%減となった。
  9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 2019年計
台数 37,267 38,659 36,808 20,475 14,803 32,662 29,227 30,294 106,986
前年比 ▲20.6% ▲11.8% ▲18.6% ▲38,5% ▲32,3% ▲16.4% ▲41.1% ▲33.9% ▲31.6%
 
)工業生産
 3月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比13.4%減となった。
 
(ウ)建設活動
 3月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比12.2%減となった。
 
(4)物価
 4月のCPI統計(INDEC発表インフレ率)は、前月比3.4%、前年同月比55.8%の上昇となった。
 4月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前月比4.6%、前年同月比72.6%の上昇となった。
 
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、4月末には、前月末比11.6%減の29571.4ポイントとなった。
 また、EMBI+指数は、4月末には前月末比176ポイント増の950ポイントとなった。
(イ)4月末の為替レートは、前月末比1.5%ペソ安、前年同月比115.2%ペソ安の1ドル=44.01ペソであった
 コールレートは、4月末には71.7%となった。対民間貸出残高は4月末には22,436億ペソとなった。
 外貨準備高は、4月末には前月末比54.8億ドル増の716.6億ドルとなった。
 
(6)財政
(ア)財政収支
 4月の財政収支(財務省発表)は、歳入が前年同月比44.0%増、一次歳出が同39.2%増となった結果、基礎的財政収支は130.3億ペソの黒字となった。また、総合収支は、660.7億ペソの赤字となった。
 
(イ)税収
 4月の税収(以下、財務省発表)は、前年同月比51.3%増の3573.6億ペソとなった。
 
(7)貿易
 4月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比1.7%増の5,305万ドル、輸入が同31.6%減の4,174百万ドルとなった結果、貿易黒字は1,131百万ドルとなった。
(了)

click