経済情報
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2013年7月アルゼンチンの経済情勢

 

2013年8月作成

在アルゼンチン大使館

 

1 概要


(1)政府が創設した「炭化水素開発投資促進制度」により、5年間で10億ドル以上の直接投資を行う企業は、投資開始から5年目に石油・ガス生産量の20%を輸出課徴金なしに輸出でき、また、同輸出によって得られる外貨の国内償還義務が課されないこととなった。


(2)7月の民間コンサルタント会社8社推計のインフレ率は、前年同月比24.91%の上昇となった。為替レートは、前年同月比20.14%ペソ安の1ドル=5.5065ペソとなった。

 

 

2 経済の主な動き


(1)経済全般


国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)報告書において、2013年の亜の経済成長率は3.5%に据え置かれた。

 

(2)貿易・通商


(ア)バカ・ムエルタ・シェールガス油田開発に対するシェブロン社の投資
15日、政令929号により、「炭化水素開発投資促進制度」(Regimen de Promocion de Inversion para la Explotacion de Hidrocarburos)を創設した。同制度により、5年間で10億ドル以上の直接投資を行う企業は、投資開始から5年目には石油・ガス生産量の20%を輸出課徴金(原油45%以上、天然ガス100%)を賦課されずに輸出でき、また、同輸出によって得られる外貨の国内償還義務は課されないこととなった。開発許可の有効期間は、25年間であるが、開発許可保有者の全ての義務が確実に遂行されていれば、事前に10年間延長することができる。炭化水素の国内生産量が、国内必要量に達しない場合、同企業は、投資開始5年目より、輸出可能な20%分について、これを国内に供給することにより、参考輸出価格以上の補填額を政府から得ることができ、また、同補填額を為替市場で自由に外貨交換することができる。


16日、YPF社とシェブロン社は、バカ・ムエルタ・シェールガス油田開発に関する最終契約を結んだ。YPFが、2012年の国有化以降、外国企業となんからの最終合意に至るのは今回が初めてとなる。YPF社とシェブロン社は、出資比率50%ずつのジョイントベンチャーを設立する。シェブロン社による初期投資額(5年間)は、12.4億ドルであり、まず同社は3億ドルを出資予定。バカ・ムエルタガス田にYPF社が保有する1.2万?(バカ・ムエルタ全体は3万?)のうち、本事業全体では、同シェールガス田のうちYPF社が保有する面積の3%超に相当する395?(ロマ・ラ・ラタ・ノルテ区域及びロマ・カンパナ区域)を開発予定であり、初期投資の対象となる鉱区面積は22?である。


18日、メルコスール加盟各国が個別に関税を35%に引き上げた100品目のうち、石油会社が必要とする輸入品について、政令927号において、税率の引き下げを措置した(HSコード84213990:14%、 84304920:0%、94060092:14%)。


24日、ネウケン州エネルギー・公共サービス省とYPF社は、合意書を交わした(ネウケン州政令第1208/13号により承認)。


(イ)その他
4日、国内取引庁は、供給法(Ley de Abastecimiento、法律第20680号、1974年6月)に基づき、価格凍結合意不履行を理由として、スーパーマーケット4軒を一時営業停止にした。同法律は、政府に、国民の一般的なニーズを満たすための財・サービスの販売・供給・価格に関する決定権、権限を与えるもので、違反の場合、罰金500ペソ〜100万ペソ、逮捕拘留最大90日間となっている。


5日、国内取引庁は、小麦生産業者に対し、国内取引庁令第67/2013号により、供給法を適用した。同庁令では、小麦の在庫を保有している者は、その在庫を国内市場に供給しなければならないとされている。


8〜9日、ジョルジ産業相は訪日し、トヨタ自動車や豊田通商等を訪問した。その際、トヨタ・アルゼンチン社は、生産能力を5000台増強する投資計画を伝えた。


16日、フェルナンデス大統領は、2012/13年期産穀物生産量が過去最高の1億540万トン超、とうもろこしが過去最高の3210万トンとなる旨発表した。


23日、フェルナンデス大統領は、外国人農村土地所有制限法(2011年12月施行)に基づいて実施された外国人農地所有状況の調査結果について発表した。同調査結果によると、農地(当館注:この「農地」とは、市街地以外の全ての土地(山林、砂漠なども含む)を意味している)は、国土の95.88%(約2.7億ヘクタール)であり、そのうち、外国人(自然人・法人)所有分は5.93%(約1588万ヘクタール)である。また、パンパ地域の外国人農地所有率は5%未満となっている。


23日、産業省は、デンソーがプジョー・シトロエン5車種向けの新型ラジエーター生産のため、5000万ペソを追加投資した旨発表した。同発表によると、デンソーは過去6年間で合計1億7000万ペソの投資を行っており、同期間中にコルドバ工場の工場面積を2倍の6500平方メートルにまで拡大した。


31日、ヤマハ・アルゼンチン社は、フェルナンデス大統領に対し、二輪車生産のための新工場(ブエノスアイレス州ヘネラル・ロドリゲス市)に1.2億ペソの投資を行うと伝えた。同工場の生産能力は年間16万台に達する。

 

(3)金融・財政


2日、未申告外貨の還流制度の実施のため、外国から流入する外貨の30%を1年間国内ドル建て口座に凍結しなければならないとする規則(政令第616/2005号)を3ヶ月間停止することが決定された(経済省令第256/13号、中銀通達B10617号)。


26日、仏政府は、残存債務問題について、米最高裁に対し、法廷助言書を提出した。その中で、 2012年10月の米控訴裁判決が確定判決となった場合、債務再編を含む他の債務再編プロセスに影響を与える懸念を表明した。


31日、資本市場法(法律第26831号)の実施規則(政令1023号)が定められた。同法は、政府に証券取引所の監督権限を付与(これまでは自主規制)し、証券取引市場の株主を証券エージェントの要件としていた規定を撤廃し、国内の複数の証券取引所の相互接続を行うこと等を定めている。

 

(4)物価・賃金


25日、雇用・生産・最低賃金審議会(政労使にて構成)において、最低賃金の2,875ペソから3,600ペソへの25.21%引き上げ、月給2.5万ペソを超えない被雇用者の既支給(6月)のボーナスを所得税の課税対象外とする旨決定された。

 

 

3 経済指標の動向


(1)経済活動全般


31日、野党下院議員は、民間調査機関が作成するGDPの平均を「議会GDP」として公表開始した。それによると、2013年第1四半期の実質GDP成長率は、前年同期比0.5%(INDEC(国家統計局)発表では3%)となっている。


5月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比7.8%増、前月比0.6%増と、前年比の増加幅が増大した。

 

(2)消費


(ア)小売
6月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比26.2%増、前月比16.3%増となり、前年同月比の増加幅が減少した。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比27.1%増、前月比7.8%増となった。


(イ)自動車販売
7月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比22.2%増、前月比8.0%増減なった。

 

(3)工業生産・建設活動


(ア)工業生産
6月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比3.8%増、前月比0.1%減となり、前年同月比は3ヶ月連続のプラスとなった。分野別では、石油精製や基礎金属等において減少が見られた一方で、自動車や金属機械等が好調だった。


6月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比0.2%増、前月比2.6%減の71.8%となった。分野別では、石油化学や非鉄金属等において上昇が見られた一方で、金属機械や飲食料品等において下落が見られた。


(イ)建設活動
6月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比6.6%増、前月比0.5%増となり、前年同月比が5ヶ月連続の増加となった。


(ウ)自動車生産
7月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比9.1%増、前月比13.3%増と、前月比の伸び幅が減少した。

 

(4)物価・雇用


(ア)物価
7月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比10.6%、前月比0.9%の上昇となった。娯楽費において、前月比3.4%増と、高い伸びが見られた。公式統計は引き続き実態をかなり下回っていると見られており、7月の議会インフレ率(一部の野党議員が集計する民間コンサルタント会社8社の推計を平均した値)は、前年同月比24.91%、前月比2.55%の上昇となった。また、6月のブエノスアイレス市インフレ率(Ipcba)は、前月比1.9%となった。


7月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前年同月比13.7%、前月比1.1%の上昇となり、引き続き高い水準となった。


(イ)雇用・賃金等
6月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比25.44%増、前月比2.08%増と、引き続き高い水準となった。

 

(5)金融


(ア)Merval指数(株価指数)は、7月末には、前月末比381ポイント減の3,357ポイントとなった。
また、EMBI+(カントリーリスク指数)は、7月末には前月末比1ポイント増の1,187ポイントとなった。なお、同指数は、主にドル建て流通国債に対する市場の評価を表すが、亜政府は、近年ドル建て新規国債を発行していない点に注意が必要である。


(イ)為替レートは、引き続き安定して推移しつつ、緩やかにペソ安となり、7月末には前月末比2.25%、前年同月比20.14%ペソ安の1ドル=5.5065ペソとなった。
コールレートは、7月末には前月末比2.95%減の9.75%となった。民間金融機関預金残高は、7月末において、前年同月末比30.9%増、前月末比0.9%増の4,807億ペソとなった。対民間貸出残高は、7月末には前年同月末比31.8%増と、引き続き高い伸び率となった。


外貨準備高は、7月末には前月末比0.49億ドル増の370.49億ドルとなった。

 

(6)財政


(ア)財政収支
5月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比33.3%増、一次歳出が同36.1%増となった結果、一次財政収支黒字は同30.2%減の16.7億ペソの黒字となった。また、総合収支は、6.6億ペソの赤字となった。

 

(イ)税収
7月の税収(経済省発表)は、前年同月比31.0%増の802.98億ペソとなった。付加価値税収が同38.8%増の21,562百万ペソ(うち、国内分については同38.6%増、税関分については29.6%増)、法人及び個人に係る所得税収が同42.4%増の15,649百万ペソ、輸出税収が同15.8%減の5,658百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同38.7%増の15,081百万ペソとなった。

 

(7)貿易


6月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比6.0%増の7,551百万ドル、輸入が同4.9%増の6,396百万ドルとなった結果、貿易黒字は同12.8%増の1,155百万ドルとなった。輸出では、主に穀物や輸送部品等が増加した一方、化学製品や金属等が減少した。輸入では、主に中間財が減少した一方、主に自動車等が増加した。

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