1.概要
(1)外貨準備を用いた「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」の創設に関連し、レドラド中央銀行総裁が解任され、その後任として、マルコ・デル・ポント・ナシオン銀行総裁が中銀総裁に任命された。
(2)株価指数であるMerval指数は、欧州の財政不安や海外主要株式市場の下落等により、軟調に推移した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、中銀総裁解任問題や二百周年基金を巡る与野党の対立等を受けて、上昇した。
(3)1月の消費及び生産については、引き続き回復の動きが見られた。市場見通しでは09年の成長率は▲0.1%、10年は3.6%と予測されている。
政府発表では、2月の消費者物価の伸びは9.1%と上昇幅の拡大が見られたが、民間の推計においても上昇幅の大幅な拡大が見られ、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
1月の財政収支は、一次歳出の伸びが歳入の伸びより高いことを受けて、黒字幅は前年同月比48.1%減と大幅に縮小した。他方、総合収支は、再び黒字となった。
(4)1月の貿易は、輸出が前年同月比19%増、輸入が同16%増となった結果、貿易黒字は同25%増となった。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
1日、レドラド中銀総裁は、総裁解任に関する緊急大統領令に係る保護請求訴訟を取り下げた旨明らかにした。
1日、亜GMは、本年の生産台数を約50%増加させるべく、9,000万ドルの投資を行う旨発表した。
2日、議会の両院特別委員会は、レドラド中銀総裁の進退に関する意見書を政府に提出した。同意見書は、委員会メンバー3名(コボス上院議長(副大統領)、マルコナト下院予算委員長(ペロン党キルチネル派)及びプラット・ガイ下院金融委員長(市民連合))のそれぞれの意見が記されており、2対1でレドラド総裁解任を支持する内容となっている。
3日、フェルナンデス大統領は、議会の両院特別委員会からの意見書の提出を受け、政令を発出し、1月に発出された緊急大統領令によるレドラド中銀総裁の解任を追認するとともに、マルコ・デル・ポント・ナシオン銀行総裁を中銀総裁に任命した。また、ファブレガ・ナシオン銀行総括部長をナシオン銀行総裁に任命した。なお、中銀総裁の就任に当たっては、上院による同意が必要であるが、中銀定款第7条に従い、上院で同意人事が可決されるまでの間、中銀総裁の職務を臨時に遂行することが可能である。
5日、政府は、連邦行政高等裁判所による「債務削減及び安定性のための建国二百周年基金」(以下、基金)創設に係る二審判決(基金創設のための緊急大統領令の有効性について議会が判断するまで、同大統領令を凍結する旨命じた一審の判決を支持)を、最高裁に上告するため、上告申請書を連邦行政高等裁判所に提出するとともに、最高裁の決定がなされるまで、同大統領令に係る凍結仮処分を解除するよう求めた。
10日、政府は、ブエノスアイレス州の農牧生産者に対する融資プランを発表した。ナシオン銀行から融資を受けている生産者のうち、返済が困難な者についてリスケが実施される。
11日、ブッシ亜農業連合(FAA)会長は、9日フェルナンデス大統領が最近の牛肉価格上昇の責任は農牧生産者にある旨発言したことに関し、政府の農牧政策への不満を表明するとともに、今後、各地で抗議集会を実施する可能性を示唆した。
12日、モレノ国内取引長官は、牛肉業界関係者と会合を行い、「牛肉市場が正常化し、牛肉不足に対して不満を述べる者がいなくなるまで、輸出を自由化しない」旨述べ、牛肉供給が正常化するには60〜90日間要するとの見方を示した。これに対し、ドミンゲス農牧漁業相は、「牛肉輸出が停止されることはないであろう」と述べた。
16日、亜農業連合(FAA)の生産者約400名は、政府の農牧政策に反対し、また、特に小麦輸出の正常化を要求して、サンタフェ州チャバス市において抗議デモを実施した。
17日、農牧漁業省は、小麦100万トン及びトウモロコシ1,000万トンについて、輸出を自由化する旨のプレスリリースを発出した。
18日、主要農牧4団体から成る「連絡委員会」は、ストなどの抗議活動は延期するが、今後も農産地各地での抗議集会を実施する旨表明した。
23日、ブドゥー経済相辞任の噂が市場に流れたが、経済省はこれを否定した。
23日、ブドゥー経済相は、国家統計局(INDEC)の学術審議会のメンバーと会合を行った。同メンバーらは、ブドゥー経済相に対し、再三の要求にもかかわらず未だ提供されていない情報を提供するよう要請した。
24日、連邦行政高等裁判所は、基金創設に係る緊急大統領令に関し、政府による上告申請を認めたが、政府が求めていた同大統領令に係る凍結仮処分の解除要請については認められなかった。
24日、フェルナンデス大統領は、主要閣僚、中銀総裁、キルチネル元大統領らとともに、経済界代表を招いて昼食会を開催した。大統領は、銀行経営者に対して、企業への融資を促進するよう要請した。
(2)物価・賃金
9日、モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長は、本年の賃上げ交渉に関し、「各労組が、それぞれの要求に基づき、それぞれ交渉を行う」と述べた。
17日、政府と連邦教員労組5団体は、計23.4%の賃上げで合意した。
(3)金融・財政
11日、マルコ・デル・ポント中銀総裁は、民間銀行、ナシオン銀行等の代表らと会合を行った。同総裁は、会合の中で、銀行側に対し、生産分野への融資の促進等を要請した。
18日、政府は、通貨・為替・金融政策調整評議会の創設を発表した。マクロ経済政策と通貨・為替・金融政策を調整することを主な目的とする同評議会は、ブドゥー経済相により主宰され、経済省からは、ロレンシノ金融長官及びフェレッティ経済計画長官が、中銀からは、マルコ・デル・ポント総裁、ペッシェ副総裁及び中銀に指名される者が出席する。
24日、マルコ・デル・ポント中銀総裁は、エコノミストらと会合を行い、マクロ経済情勢や生産部門への融資強化の方法等について意見交換を行った。
(4)対外関係
4日、ブドゥー経済相は、訪亜中のマンテガ伯財務相と会談を行った。また、ジョルジ産業観光相は、同様に訪亜中のジョルジ伯開発商工相と会談を行った。
5日、ブドゥー経済相、ジョルジ産業観光相及びタイアナ外相は、マンテガ伯財務相、ジョルジ伯開発商工相及びアモリン伯外相とともに、6閣僚による亜・伯定期閣僚会合を行い、G20で取るべき立場、EU・メルコスール自由貿易協定締結に向けた各種問題点、両国の通商問題等について協議がなされた。
6日、ベネズエラを訪問中のデビード公共事業相は、チャベス・ベネズエラ大統領と会談を行い、電力部門における亜政府による協力を申し出た。会談後の記者会見において、デビード公共事業相は、「我々は、(ベネズエラにおける電力不足)問題解決に向けて、パートナーとして協力するためにベネズエラを訪問した。亜は、送電の効率化等の分野において協力することが可能である。2004年に亜がエネルギー不足に直面していた際、ベネズエラが協力をしてくれたが、今回はその返礼をしたい」等述べた。
16日、政府は、伯製ポリプロピレン糸、韓国、マレーシア、タイ及びベトナム製の一部のエアコン並びに中国製スーツについて、アンチダンピング調査を開始した。
22日、訪墨中のフェルナンデス大統領は、モレーノ米州開発銀行(IDB)総裁と会談し、IDBによる対亜融資の進捗状況、IDBの資本増強の進捗状況、対ハイチ支援のための新たな融資の可能性につき協議した。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
12月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比5.0%増、前月比1.8%増と、前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。2009年年間では、前年比0.9%増となった。
2月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測と同じ▲0.1%、10年は同0.1ポイント上昇の3.6%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
1月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比18.2%増、前月比6.3%減と、5ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比11.4%増、前月比4.3%増となり、6ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが2桁台となった。
(ロ)自動車販売
自動車協会(ADEFA)が発表した2月の自動車販売台数は、前年同月比49.2%増、前月比1.3%減となった。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
1月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比5.4%増、前月比8.0%減となり、引き続き、回復の動きが見られた。分野別では、自動車を初め、プラスチック、繊維、基礎金属等において大幅な伸びが見られた。なお、亜工業連盟(UIA)によると、1月の工業生産は、前年同月比6.0%増、前月比6.2%減となった。
1月の稼働率(INDEC発表)は、休暇シーズンに入ったことを受けて、前月に比べ13.2ポイント下落し、66.6%となった。たばこ及び石油精製を除く全分野において下落が見られた。
(ロ)建設活動
1月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比5.2%増、前月比6.1%増と、回復の動きが見られた。
(ハ)自動車生産
自動車協会が発表した2月の自動車生産台数は、前年同月比169.1%増、前月比26.9%増と、輸出の回復等を受けて、大幅に増加した。
(4)物価・雇用
(イ)物価
2月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比9.1%、前月比1.2%の上昇と、引き続き上昇幅が拡大し、2008年7月以来19ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが9%を超えた。また、前月比の伸びが1.2%となるのは、2006年3月以来約4年ぶりのことである。飲食料において前月比2.6%の上昇と、高い上昇が見られた。他方、民間の推計においても上昇幅の大幅な拡大が見られ、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
2月の卸売物価指数は、前年同月比13.2%、前月比1.3%の上昇と、引き続き上昇幅が拡大した。
REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.5ポイント上昇の前年比11.3%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
2009年第4四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比1.1ポイント増、前期比0.7ポイント減の8.4%となり、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比1.2ポイント増、前月比0.3ポイント減の10.3%となった。
1月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比17.03%、前月比1.43%増となった。民間非正規部門における伸びが前月比2.72%増と高かった。
REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.89ポイント上昇の前年比18.28%増、10年の失業率は前月の予測より0.1ポイント下落の8.5%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数は、欧州の財政不安や海外主要株式市場の下落等により、軟調に推移し、5日には、2,200ポイントを割ったものの、26日には、前月末比78ポイント下落の2,221ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、中銀総裁解任問題や二百周年基金を巡る与野党の対立等を受けて、上昇した後、800ポイントを挟んで推移し、26日には前月末比64ポイント増の792ポイントとなった。
(ロ)為替レートについては、国内政治情勢の悪化等を受けて、緩やかにペソ安となり、26日には、前月末比3.7センターボ(1.0%)ペソ安の1ドル=3.86ペソとなった。コールレートは、月初に上昇した後、安定して推移し、26日には、前月末比0.06ポイント上昇の9.19%となった。民間金融機関預金残高は、26日において、前年同月末比16.4%増、前月末比0.4%減の1,976億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月末比9.3%増と、前月とほぼ同じ伸び率となった。外貨準備高は、480億ドルを挟んで推移した後、月末に減少し、26日には、前月末比4億ドル減の478億ドルとなった。
REMの平均では、10年の為替レートは前月予測と同じ1ドル=4.19ペソ、外貨準備高は同11億ドル減の504億ドルと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
経済省が発表した1月の財政収支は、歳入が前年同月比16.0%、一次歳出が同21.8%それぞれ増加し、一次財政黒字は同48.1%減の10億ペソとなった。また、総合収支は、4億ペソの黒字となった。
REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より5億ペソ増の141億ペソと予測されている。
(ロ)税収
経済省が発表した2月の税収は、前年同月比20.2%増の274億ペソとなった。付加価値税収が同22.2%増の8,240百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同24.9%増の4,689百万ペソ、輸出税収が同14.5%増の2,718百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同22.5%増の3,759百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同19.6%増、税関分については前年同月比32.0%増となった。
REMの平均では、10年の税収は前月の予測より16億ペソ増加の3,649億ペソと予測されている。
(7)貿易
1月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比19%増の4,423百万ドルとなり、輸入が同16%増の3,206百万ドルとなった結果、貿易黒字は同25%増の1,216百万ドルとなった。輸出については、前年同月比3%減となった農牧製品を除き、全般的な増加が見られ、特に工業製品については、価格が同21%減となった一方、数量が同81%増となった結果、全体では同42%増となった。乗用車、トウモロコシ等穀物、バイオディーゼル、原油等が増加した一方、大豆、食用油等が減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、乗用車、航空機、携帯電話、鉄鉱石、石炭、自動車の部品等が増加した。
REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より2億ドル増の654億ドル、輸入は同3億ドル減の496億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比7%減の158億ドルとなる)。
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