アルゼンチン経済情勢(月1回更新)

令和2年6月4日

2020年2月の経済情勢

 

 

概要

(1)  1日,政府はベリス大統領府戦略長官を米州開発銀行(IDB)総裁候補に推薦することを公表した。

(2)  5日,グスマン経済相は,バチカン市国で開催された債務に関するセミナーで,パリクラブの対亜債務の金利の引き下げを求める発言を行った。

(3)  14日,政府は年金の引き上げ額を発表。最低年金者を対象に+13%の引き上げを行うが,年金者全体の平均引き上げ率は約8%となる。これは廃止された年金給付額自動改定法が予定していた引き上げ率11.56%を下回る数値となった。

(1)  18日,IMFのテクニカルミッションはフェルナンデス政権発足後初の訪問を終え声明を発表した。その中で亜の債務は「持続不可能」であるとし,民間債権者に対して「大幅な債務削減」を暗に要請した形となった。


 経済の主な動き(報道ぶり等)

  1. 1日,政府はベリス大統領府戦略長官を米州開発銀行(IDB)総裁候補に推薦することを公表した。オブラドール墨大統領によるベリス戦略長官の米州開発銀行(IDB)の総裁選出馬に対する支持表明が報じられた後,亜政府も正式に認めた形。同戦略長官は,新政権発足前は,ラテンアメリカ大陸の開発プロジェクトを支援する多国間融資機関「IDBラテンアメリカ・カリブ統合研究所(Instituto para la Integración de América Latina y el Caribe)」で所長を務めていた

  2. 3日,ブエノスアイレス州政府は,BP21債の返済期限を5月1日まで延長するために十分な債権者からの承認を得るべくオファーを改善したあらたに改善されたオファーとは,1月26日に償還期限を迎えた元本の30%(約7500万ドル)の支払い。さらに,オファーには5月1日まで債務返済期限が延長された場合の金利(約500万ドル)の支払いも含まれる。

  3. 4日,ブエノスアイレス州は,債権者との合意に達することができず,債権者に支払いを行う旨発表した。BP21債にかかる債務支払いは4度の延期の後でも債権者との合意はなく,キシロフ州知事は債権者に(元々1月26日に満期を迎え)元本(2億5000万ドル)と利子(2700万ドル)を支払いデフォルトを回避することを決定した。年内に支払う必要のある州の残りのドル建て債務にかかる交渉のためのプロセスを開始すると発表した。

  4. 経済省は2月13日に償還期限を迎えるDual債(ドル建て債券だが,元本と利息の支払いはペソで行うもの)163700万ドルのうち,僅か1割の16400万ドルしか借換を行うことが出来ず(オファーを行った債権者の数は99件),来週返済期限を迎える債務を縮小することができなかった。グスマン経済相にとって初の躓きと報じられた。

  5. 5日,グスマン経済相は,バチカン市国で開催された債務に関するセミナーで,フランシスコ・ローマ教皇とゲオルギエバIMF専務理事を前にして,パリクラブに対し,対亜債務の金利の引き下げを求める発言を行った。グスマン経済相は(セミナーの中で)「IMFとの建設的な歩み寄りだけでは不十分だ。パリクラブ問題にも取り組まなくてはならない。」と述べた。同大臣は,「亜が2020年及び2021年に支払わなくてはならない9%の金利というのは持続不可能であり,その他の債務の再編にとって非常に悪い足かせである。他の債権者とパリパス(同条件)ではない(no es pari passu con el resto de los acreedores)。」と表明した。

  6. 8日,キューバ滞在中のクリスティーナ・フェルナンデス副大統領はIMFに対し債務の大幅な削減を認めるよう求めた。現在直面している債務再編交渉について「独裁政権下で債務規模は年間平均100億ドルだった。(マクリ政権下の)4年間で年間債務は平均330億ドルだった」と述べた。「ゲオルギエバ専務理事は,この違法融資の責任者であるリプトン副筆頭理事を解任するようだ」と,IMFがマクリ前政権に対し規定に反する融資を行ったと批判した。「IMFは規定違反だからIMF債務の削減は不可能と主張するが,為替政策や資金流出のための融資だって違反ではないか。違反行為が我々だけに禁じられていて,なぜIMFに対しては禁じられないのか。」「IMFは史上異例の融資を行い,しかもIMF自身が規定する義務を遵守しなかったのだから,債務の大幅な削減を認めるべきだ」と主張した。IMFのライス報道官はクリスティーナ副大統領に対し「マクリ前政権に対する融資はIMF規定に違反するものではなく,債務再編において債務の削減はIMFの規定上認めることは出来ない」とコメントした。

  7. 米国政府は特恵関税制度対象国から中国のほか亜を含む途上国20カ国を除外した。今回の米国による一般特恵関税制度対象「途上国」・「後進国」リストの縮小は,中国やインドのような経済大国が世界貿易機関(WTO)により開発途上国とみなされ恩恵を受けることは不当だとするトランプ米大統領の遺憾の表明と捉えられている。米国政府の規定によれば,「G20の世界経済における重要性と構成国の共同経済の比重を鑑み,G20の構成国は先進国と見なす。従って亜,ブラジル,インド,インドネシア,南アフリカも特権関税制度の対象外とする」と記されている。

  8. 12日,経済省は13日に期限が切れるAF20債(Dual債)960億ペソを9月30日までリプロファイリング(債務返済期限延長)した。債券保有額が2万ドル以下の個人債権者に対しては債務を返済する。

  9. 13日,中銀当局は再度の政策金利(の下限)の引き下げ(▲4ポイント)を行い,44%まで引き下げられた。中銀はインフレのペースが減速したことを理由に挙げているが,エコノミストらは(1月のインフレ率低下が統計手法の変更が寄与したと思われることや価格凍結が終了する下半期以降のインフレ再燃懸念がある等として)時期尚早だと警告している。ペッセ総裁が就任して以来,Leliq金利の下限は既に19ポイントも引き下げられた。

  10. 14日,政府は年金の引き上げ額を発表。最低年金者を対象に+13%の引き上げ,そのほかの年金所得層には引き上げ率を制限する形となった。政府は3月より年金・恩給の2.3%の引き上げと+1500ペソの増額を実施する。これにより最低年金者に対する引き上げ率は13%となり,最低年金額は現在14068ペソであるところ,15981ペソまでの引き上げが実施される。 家族手当,一般子供手当(AUH)も同様の引き上げ(AUH2746ペソから3103ペソまでの引き上げ)が適用される。年金・恩給・家族手当・子供手当受給者の86.8%(対象者1360万人)にとって,12月に廃止された年金給付額自動改定法が3,4,5月に予定していた引き上げ率(+11.56%)を上回る引き上げとなる。年休・恩給受給者のみに限ると,全体の75%が最大引き上げ率の適用対象となり,残りの25%(16250ペソ以上の年金・恩給受給者)に当たる約200万人は,(年金給付額自動改定法が設定していた引き上げ率に比べ)損失を被ることとなる。年金者全体の平均引き上げ率は約8%となる。これは廃止された年金給付額自動改定法が予定していた引き上げ率11.56%を下回る数値。

  11. 18日,IMFのテクニカルミッションはフェルナンデス政権発足後初の訪問を終え声明を発表した。その中で亜の債務は「持続不可能」であるとし,民間債権者に対して「大幅な債務削減」を(暗に)要請した形となった。声明には亜政府が期待していた内容が記されていたと言えるが,一方で,民間債権者との債務交渉にのみ言及したもので対IMF債務(約440億ドル)については言及がなかった。フェルナンデス大統領はツイッターで「亜の債務状況にIMFが理解を示したことを嬉しく思う」とコメントした。「全ての当事者が合意への意志を表明するとき,我々は再び成長し,コミットメントを達成し,亜を再生させることが可能となる」と述べた。

  12. 19日,政府は議会に知識経済法改正法案を提出した。政府の見解によると,所得税の税率削減(▲60%)は維持されるほか,雇用者拠出金を引き下げ(通常の拠出金より▲70%)を行う。一方,企業が同恩恵措置の対象に選出する労働者の数を制限する。同法は以前,テック企業の全従業員を同恩恵制度の対象として定めていた。しかし今回の改正法案は受益者を3745人に限り,各企業の雇用者拠出金を削減する。実際に「ソフトウェア開発」と知識経済に従事する従業員のみを同恩恵措置の対象とし,一般事務をはじめとする他部門の従業員は対象外とする。企業は新規雇用を行った際,受益者の数を拡大するよう政府に要請することができるが,生産開発省の承認が必要となる。また,今回法案は「知識経済」に当たる企業や部門の選出をサポートする諮問会の新設を定めている。

  13. 19日,農牧協会(SRA),農業連盟(FAA),亜農村連合(CRA),有限農業協同組合連合(CONINAGRO)から成る農牧団体(Mesa de Enlace) は輸出税増税措置に抗議すべく商取引のストの実施に向け会合を行っていたが,バステーラ農牧漁業大臣がこれら農業部門との会合を呼びかけた。農牧部門の団体は共同声明を発表し「農牧漁業省が来週会合の呼びかけを行ったことから,ひとまず(スト計画を保留し)来週の会合を待ち,その結果に応じて今後のアクションプランを決定する」と伝えた。

  14. 19日,中銀は政策金利(Leliq金利)の下限を40%まで4ポイント引き下げた。ペッセ中銀総裁就任からこれまでにLeliq金利は63%から40%まで23ポイント引き下げられ,2018年8月2日以来の最低値を記録した。

  15. 20日,政府は6月以降電気・ガス料金の引き上げの実施を発表した。交通料金に関しては(6月前の)5月に引き上げを実施する。カフィエロ官房長官は「(今回の引き上げは)引き上げに耐えることができるセクターのみを対象にする」と強調した。政府は201912月から2020年6月までブエノスアイレス州の電気・ガス料金の引き上げ凍結を法定していた。

  16. ニューヨーク債権者委員会代表のハンス・フメスHans Humes氏(Greylock Capital Management創業者、現CEO)によるインタビュー。「民間債権者とIMFは敵ではない。クリスティーナ副大統領でさえ全面的なデフォルトを求めていない」、「誰も全面的なデフォルトを求めていないし,2005年から2015年にかけての長期にわたる訴訟を再び繰り返したくはない。クリスティーナ副大統領の直観を信用する」とコメントした。その他,「我々は譲歩しなければならない。ウォール街にいる我々は被害者ではない。被害者は亜国内で食にありつけない貧困層だ」「誰も2005年から2015年の訴訟が再び起こることを望んでいない。深刻なデフォルトをあえて起こす理由はない。もしそれが起こるとすれば,それは誰かの過ちによるものだ。」とコメント。

  17. 26日,経済省はAF20Dual債)を別の2021年満期債(金利はBadlar+100ベーシスポイント)との交換に成功したと発表した。政府は,2月にAF20債満期を迎えた元本960億ペソの返済期限を9月まで延長させており,これまでに(今回の借換え成功分を含め全体で)同債券の約18%(172900万ペソ)の借り換えに成功したことになる。

  18. 27日,政府はバステーラ農牧漁業大臣と農牧団体(Mesa de Enlace)との会合の後,計画していた大豆に対する輸出税の+3%の追加引き上げの発表を延期することを決定した 。再び会合を行い大豆輸出税の33%までの引き上げに加え,地域生産品10品目に対する税率の引き下げ(トウモロコシと小麦に対しては税率12%が維持される)の新方針を確定する方向。

     

  19. 29日,政府は平均+6%のガソリン税の引き上げを予定していたが,最終的に燃料税引き上げの延期を決定した(現政権発足以来3度目の延期)。3月31日まで凍結が維持される。   (了)