1.概要
(1)政府は、国家公務員の賃金について、2度に亘って、計15.6%引き上げる旨発表した。また、政府は、亜伯間における通貨スワップ協定について発表した。
(2)株価指数であるMerval指数は、原油高や世界的な株式市場の回復等を受けて、上昇を続けた。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退等から、大きく低下した。外貨準備高は、大豆輸出業者の外貨売り等を受けて、月後半にかけて増加した後、減少した結果、前月末比2億ドル増となった。
(3)4月の消費については、持ち直す動きが見られたものの、一部において弱さが見られた。生産については、下げ止まりの兆候が見られたものの、全体として低調であった。また、5月の自動車の販売及び生産は、引き続き前年に比べ大幅な減少となった。市場見通しでは09年の成長率は0.7%、10年は2.3%と予測されている。
政府発表では、5月の消費者物価の伸びは前年同月比5.5%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
4月の一次財政収支は、黒字となったものの、黒字幅は前年に比べ69.8%の減少と、大幅に縮小した。また、総合収支は、2ヶ月連続で赤字となった。
(4)4月の貿易は、輸出が前年比13%減、輸入が同43%減と、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同155%増となり、90年以降で過去最高の黒字となった。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
4日、政府は、植物油産業会議所(CIARA)及び穀物輸出センター(CEC)代表と協議を行い、穀物輸出業者が、計100万トンの小麦を、国際価格から経費を控除した価格で国内生産者から買い取ること等を内容とする合意書に署名した。小麦生産者にとっての予見可能性を高め、小麦の播種・生産の促進が目的と見られる。
4日、国際放送協会(AIR)は、放送法改正法案を非難する決議を行った。
12日、政府は、主要農牧4団体と会談を行い、穀物運搬許可証(Carta de Porte)及び穀物トレーサビリティ制度について協議した。
13日、昨年国営化された民間年金基金(AFJP)の資金運用を監視するための両院合同委員会が設置された。
14日、政府は、自動車メーカー幹部と協議を行い、新車購入者向け融資制度の拡充について合意した。
18日、国家社会保障機構(ANSES)は、政府による自動車産業救済策の一環として、亜メルセデス・ベンツ社の社債3,000万ペソを引き受けた。
21日、フェルナンデス大統領は、アルゼンチン航空及びアウストラル航空向けの航空機20機を、伯Embraer社から購入する契約に署名した。購入額は約6億ドルとされ、そのうち85%は、伯国立開発銀行(BNDES)によって融資される見込みである。
26日、フェルナンデス大統領は、新たな不動産向け融資制度を発表した。融資合計額は16億ドルとされ、国家社会保障機構(ANSES)の資金を用いて行われる。
28日、ティエラデルフエゴ州の石油労組がストを行い、同州からの天然ガスの供給が停止した。
(2)物価・賃金
12日、政府は、国立大学教員の賃金について、2度に亘って、計15%引き上げる旨発表した。
13日、政府は、国家公務員の賃金について、2度に亘って、計15.6%引き上げる旨発表した。引き上げによる財政負担は、年間で30億ペソ程度と見られている。
14日、銀行員労組は、20%以上の賃上げを求めて、ストを行った。
22日、銀行員労組は、賃上げを求めて、再びストを行った。
26日、建設業界と建設労組は、15%の賃上げで合意した。
27日、一部の銀行業界(ADEBA及びABE)と銀行労組は、19%の賃上げで合意した。
(3)金融・財政
8日、政府は、亜伯間における通貨スワップ協定について発表した。協定の内容は、亜ペソと伯レアルによる双方向のもので、スワップの上限は15億ドル、期間は3年とされ、一方の国が申請を行った場合にスワップが実施される。今後、技術的な会合が開かれ、その後、両国の中央銀行総裁によって、同協定に署名が行われる予定である。
8日、国家社会保障機構(ANSES)が保有する政府短期債券(Letras de Tesoro)84.5億ペソをBONAR2016債の発行により借り換えるための省令が官報に掲載された。なお、同省令の署名日は3月18日付となっており、4月までに既に53.5億ペソ分の借り換えが実施されている。
11日、証券取引委員会は、証券会社や投資ファンドに対し、租税回避地との証券取引を禁止する決定を行った。
(4)対外関係
7日、チャベス・ベネズエラ大統領は、ベネズエラ政府によるシドール社(テチント・グループ傘下)の国営化に係る賠償金として、19.7億ドルを支払いことで、テチント・グループと合意した。
15日、フェルナンデス大統領は、チャベス・ベネズエラ大統領と首脳会談を行った。首脳会談後の記者会見において、フェルナンデス大統領は、「ベネズエラが亜国債を購入するためには、ベネズエラ市場での更なる亜国債起債に関する亜政府の政治決定が必要であり、我々はかかる政治的決定は行っていない」旨述べ、更なる亜国債をベネズエラが購入する可能性を否定した。
22日以降、経済界は、21日にチャベス・ベネズエラ大統領が発表した、テチント・グループが出資する製鉄関連企業の国有化について、本措置を厳しく非難するコミュニケを発出し又は見解を表明した。特に、亜工業連盟(UIA)は、本措置のネガティブな結果に深く憂慮するとし、亜政府に対し、亜国企業の正当な利益を擁護するべく努力を行うよう要請するとした。さらに、亜政府に対し、メルコスールの正式な加盟国としてベネズエラを加入させるとの決定を見直すよう要請するとした。
26日、フェルナンデス大統領は、ベネズエラ政府による製鉄関連企業の国有化について、テチント・グループを援助する旨述べた。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
3月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比2.7%増、前月比0.2%減と、引き続き低い伸びとなった。
5月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.2ポイント下落の0.7%、10年は同0.1ポイント下落の2.3%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
4月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比4.8%減、前月比1.2%増と、2ヶ月連続で前年同月比でマイナスとなった。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比20.6%増、前月比4.8%増と、昨年11月以来5ヶ月ぶりに前年同月比20%を越える伸びとなった。
(ロ)自動車販売
自動車協会(ADEFA)が発表した5月の自動車販売台数は、前年同月比31.0%減、前月比3.4%増と、3ヶ月連続で前月に比べ増加したものの、引き続き前年に比べ大幅に減少した。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
4月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.4%減、前月比2.3%増と、4ヶ月連続で前年に比べマイナス成長となった。分野別では、引き続き、自動車、基礎金属、繊維等において大きな後退が見られた一方で、飲食料品、化学、金属機械等は好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、4月の工業生産は、前年同月比9.6%減、前月比1.9%増とされている。
4月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ5ポイント上昇し、74.7%となった。自動車及び製紙を除き、全体的な上昇が見られた。自動車については45.5%と、引き続き低い稼働率であった。
(ロ)建設活動
4月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.0%減、前月比3.6%増と、引き続き前年同月比でマイナス成長となった。
(ハ)自動車生産
自動車協会が発表した5月の自動車生産台数は、前年同月比23.6%減、前月比14.8%増と、輸出の増加等を受けて前月に比べ増加したものの、引き続き前年に比べ大幅に減少した。
(4)物価・雇用
(イ)物価
5月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.3%、前年同月比5.5%の上昇となった。教育において大きな上昇が見られたほか、衣類等においても上昇が見られた。景気の減速等に伴い、実態のインフレ率は下落傾向にあるものの、公式統計は依然として実態を下回っているのではないかと見られている。
5月の卸売物価指数は、前月比0.4%、前年同月比は5.6%と、それぞれ上昇したが、引き続き前年同月比の伸びは鈍化した。
REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント下落の前年比6.9%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
2009年第1四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比増減なし、前期比1.1ポイント増の8.4%となり、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比0.9ポイント増、前期比増減なしの9.1%となった。
4月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.36%増、前年同月比22.0%増となった。民間非正規部門において、大きな上昇が見られた。
REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.15ポイント上昇の前年比14.96%の増、09年の失業率は前月の予測より0.1ポイント下落の8.9%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数は、原油高や世界的な株式市場の回復等を受けて、上昇を続け、29日には前月末比312ポイント(24.5%)上昇の1,587ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、デフォルト懸念の後退等から、月初に低下をした後、1,500ポイント前後において荒い動きで推移したものの、月末にかけて再度低下し、29日には前月末比475ポイント(26.9%)減の1,291ポイントとなった。
(ロ)為替レートについては、大豆輸出業者による外貨売り等により、安定して推移しつつ、緩やかにペソ安となり、29日には前月末比2.67センターボ(0.7%)ペソ安の1ドル=3.7465ペソとなった。コールレートは、月初に10.81%に低下し、安定して推移した後、月末に更に低下し、29日には前月末比0.13ポイント減の10.75%となった。プライムレートは、20%台で推移した後、月末に19%台まで低下したものの、再び上昇し、29日には前月末比0.08ポイント減の20.16%となった。民間金融機関預金残高は、29日において前月末比0.4%増の1,747億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月比で12.4%の増となり、引き続き伸びが鈍化している。外貨準備高は、大豆輸出業者の外貨売り等を受けて、月後半にかけて増加し、21日には467億ドルに達した後、減少し、29日には前月末比2億ドル増の465億ドルとなった。
REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測と同じ1ドル=4.12ペソ、外貨準備高は前月の予測より2億ドル上昇の451億ドルと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
経済省が発表した4月の財政収支は、歳入が前年同月比8.0%、一次歳出が同20.1%それぞれ増加し、一次財政黒字は同69.8%減の8億ペソと、2ヶ月連続で10億ペソを下回った。なお、総合収支も、17億ペソの赤字と、2ヶ月連続で赤字となった。一次財政黒字の減少要因として、景気悪化を受けた税収の不調、連邦連帯基金を通じた大豆に係る輸出課徴金の地方交付金の増、景気浮揚策の一環としての公共事業費の増等が挙げられている。
REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より29億ペソ減の219億ペソと予測されている。
(ロ)税収
経済省が発表した5月の税収は、前年同月比12.5%増の273億ペソとなった。付加価値税収が同0.3%増の6,731百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同23.6%増の6,518百万ペソ、輸出税収が同9.7%減の2,907百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同22.9%増の3,165百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比33.1%と引き続き大幅な減少となった一方で、国内分については同20.2%の増加となった。また、従来、国営化された民間年金基金の収入となっていた年金掛金を除いた場合、税収の前年同月比で8〜9%程度の増と見られている。
REMの平均では、09年の税収は前月の予測より13億ペソ下落の3,112億ペソと予測されている。
(7)貿易
4月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比13%減の5,088百万ドル、輸入が同43%減の2,789百万ドルと、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同155%増の2,299百万ドルとなり、90年以降で過去最高の黒字となった。輸入の落ち込みの背景として、国内の生産・消費の停滞や政府による輸入制限措置等があるものと見られている。輸出については、大豆粕等の農牧製品が同4%増加したのを除いて、全体的に減少が見られ、特に、ひまわり油、大豆油、燃料、大豆、自動車、穀物等が減少した。輸入については、全分野において減少が見られ、非耐久財等の減少幅が比較的小さかったことから消費財が同23%の減少となった以外は、同45%を越える減少となった。
REMの平均では、09年の輸出は前月の予測と同じ573億ドル、輸入は同17億ドル減の457億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比12%減の116億ドルとなる)。