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2009年7月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2009年8月作成
在アルゼンチン大使館


1.概要


(1)政府は、議会選挙の結果を踏まえ、一部閣僚の交代を行い、首相にはアニバル・フェルナンデス司法・治安・人権大臣、経済相にはアマド・ブドゥー国家社会保障機構総裁がそれぞれ就任した。また、政府は、全てのセクターに対話を呼びかけ、現在迄に、首長、野党、企業関係者、農牧団体、労組等と会談を行った。


(2)政府は、国家統計局を経済相直轄とすることや審議会の設置等を内容とする国家統計局改革を発表した。


(3)株価指数であるMerval指数は、米国における株価下落等を受けて下落した後、世界経済の先行きに対する懸念の後退等から上昇に転じ、31日には年初来高値となった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、高い利回り等のため亜国債が買われたこと等から、月末にかけて低下をした。外貨準備高は、前月末とほぼ同じ460億ドルとなった。


(4)6月の消費については、一部において大幅な回復が見られ、底堅さを見せた。生産についても、下げ止まる動きや一部においては回復に向けた緩やかな動きが見られた。市場見通しでは09年の成長率は0.6%、10年は2.3%と予測されている。
 政府発表では、7月の消費者物価の伸びは前年同月比5.5%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
 6月の一次財政収支は、黒字となったものの、黒字幅は前年に比べ66.2%の減少と、引き続き大幅に縮小した。


(5)6月の貿易は、輸出が前年比5%減、輸入が同30%減と、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同688%増となった。

 

2.経済の主な動き


(1)経済全般


 1日、ハイメ運輸長官が、個人的な理由により辞表を提出し、受理された。なお、ハイメ運輸長官は、公共事業の不正入札、政府財産・公費の不正利用など約30の汚職容疑で訴えられており、今後、同長官に対する裁判が進展する可能性がある。
 2日、ハイメ運輸長官の後任として、スキアビ鉄道インフラ管理公社総裁が、運輸長官に就任した。
 7日、政府は、首相、経済相ら閣僚3名のほか、国家社会保障機構(ANSES)総裁等の交代を発表し、8日、各閣僚等が就任した。なお、首相にはアニバル・フェルナンデス司法・治安・人権大臣(旧:セルヒオ・マサ)、経済相にはアマド・ブドゥー国家社会保障機構総裁(旧:カルロス・フェルナンデス)、国家社会保障機構総裁にはディエゴ・ボッシオ不動産銀行取締役がそれぞれ就任した。
 7日、亜工業連盟(UIA)幹部は、エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官と会談を行い、還付金手続の迅速化を求めた。
 14日、フェルナンデス大統領は、企業関係者15名及びモジャーノ労働総同盟(CGT)書記長と会談し、亜経済社会情勢について話し合った。
 14〜15日、表現の自由に関する国連特別報告者であるフランク・ラルー氏が訪亜し、放送法改正法案について、フェルナンデス大統領、与党関係議員らと会談を行った。
 15日、ランダッソ内相は、最大野党連合である「市民社会合意(急進党、市民連合、社会党、コボス副大統領派等による連合)」を構成する政党・会派の代表と会談した。同会談の中で、「市民社会合意」側は、政府に対して、国家統計局(INDEC)の改革、貧困対策(子供を持つ各家庭への補助金付与等)、農牧政策の見直し、小切手税収入の地方分配、司法審議会改革、緊急大統領令の発布制限等の必要性を訴えた他、政府が創設する予定の経済社会審議会(Consejo Economico y Social)に政党も参加できるよう要請した。
 15日、フェルンナンデス大統領は、2009/10期の牛肉に係る関税割当であるヒルトン枠に関し、同枠の割当の管轄を農牧庁から国家農牧取引監督機構(ONCCA)に移管すること、割当要件として新たに事業者間の公共自由競争を実施すること等を発表した。
 21日、フェルナンデス大統領は、マクリ・ブエノスアイレス市長と会談し、公共交通、貧困、雇用問題等を解決するために協働していくことで合意した。また、同日以降、フェルナンデス大統領は、カピタニッチ・チャコ州知事、ビネル・サンタフェ州知事、シオリ・ブエノスアイレス州知事をはじめ、ほぼ全ての州知事と会談し、各州の懸案事項(農牧問題、貧困問題他)について話し合った。また、州知事の多くは、政府に対し、地方交付金制度の改革等を求めた。
 21日、ブドゥー経済相は、亜工業連盟幹部と会食を行い、経済政策に関する意見交換を行った。
 22日、ブドゥー経済相は、国家統計局改革について発表した。主な内容としては、(ア)国家統計局を経済省経済政策庁管轄から経済相直轄とする、(イ)副総裁ポストを廃止し、技監ポストを設置する。同ポストには、イツコビッチ生産商業統計価格局長が就任し、エドウィン国家統計局総裁は留任する、(ウ)3校以上の国立大学の代表により構成され、技術的な評価や助言を行う評価フォロー学術審議会を設置する、(エ)産業、サービス、労組、統計ユーザー及び消費者の代表により構成され、同局の活動について評価を行う経済社会観察審議会を設置する、等となっている。
 28日、ロベルト・フェレッティ・ナシオン銀行副総裁が経済省経済政策長官に就任した。
 31日、政府は、主要農牧4団体と会談を行い、農牧問題について協議を行った。同会談において、牛肉輸出等に関して一部進展はあったものの、農牧団体側が強く要求していた穀物輸出課徴金の撤廃・引き下げについては、政府側は、財政事情を理由に、輸出課徴金を引き下げる余地はないとして、右可能性を否定した。同会談後、政府が発表した主な農牧政策は、(ア)国内市場供給を条件とした、小麦及びトウモロコシの恒常的な輸出自由化、(イ)業者別牛肉備蓄量の上限を65%から30%に引き下げ(牛肉輸出量上限を、生産量−最大備蓄量×65%から、生産量−最大備蓄量×30%とすることで、牛肉輸出量の増枠)及び高級カット肉について業者別備蓄量から除外(高級部位の輸出自由化)、(ウ)繁殖用として飼養している18〜24ヶ月齢で400〜500kgの若牛の飼育に対する補助金の付与、(エ)国家農牧取引監督機構による輸出許可にかかる日数を最大5日に削減、等となっている。これに対し、主要農牧4団体は、今回政府が発表した対策は不十分であると不満を示し、また、政府が創設する予定の「経済社会審議会」に参加する意向はない旨表明した。他方、輸出課徴金の引き下げに向けて、今後も引き続き政府との対話を維持し、議会にも働きかけを行う旨述べた。

 

(2)物価・賃金


 3日、アパート管理人労組は、賃上げ交渉の結果、380ペソの特別手当の支給で合意した旨発表した。
 12日、トラック業界とトラック運転手労組は、実質20%の賃上げで合意した。なお、これに伴い、政府は、トラック業界に対する補助金4.7億ペソを発表した。
 28日、国家雇用・生産性・最低賃金評議会が開催され、現行、月額1,240ペソの最低賃金を、本年8月以降1,400ペソ、同10月以降1,440ペソ、来年1月以降1,500ペソと引き上げることで合意した。
 28日、政府は、天然ガスを産出する8州との間で、天然ガスの卸価格の引き上げについて合意した。
 30日、金属労組は、22%の賃上げを求めて、スト及びデモを行った。

 

(3)金融・財政


 1日、政府は、予算配分を変更し、10億ペソを新型インフルエンザ対策に充てることを発表した。
 7日、中央銀行は、レポ金利及びリバースレポ金利を0.5%引き下げ、それぞれ12%、10%とした。
 21日、ブエノスアイレス州は、3,500万ドルの州債を発行し、州内の複数の年金基金が引き受けた。償還期限は2016年、金利は最大7%とされる。
 29日、フェルナンデス大統領は、予算の歳出項目を変更できる権限(Superpoderes)を首相に与えている国家財政管理法を改正し、同権限を予算の5%に制限する旨発表した。

 

(4)対外関係


 1日、政府は、中国製の靴(スポーツ用のものを除く)に対し、ダンピング調査を開始するとともに、暫定アンチダンピング税を課すことを決定した。
 7日、政府は、アンデス開発公社(CAF)との間で、1億ドルの対亜融資案件に係る合意書に署名した。同案件は、ヤシレタ水力発電所建設計画の一環とされ、政府が0.6億ドル、アンデス開発公社が1億ドル、それぞれ出資する。
 15日、国際金融公社(IFC)は、Noble Argentina社に対し、同社の大豆圧搾に係る生産能力及び輸送能力の拡大を目的とする融資4,000万ドルを決定した。
 20日、フェルナンデス大統領は、訪亜中のヴァルドナー欧州委員(対外関係担当)と会談し、メルコスール・EU関係、ドーハ・ラウンド、ホンジュラス情勢等の共通の関心事項について話し合った。ヴァルドナー欧州委員は、デジタルテレビについて、亜が欧州方式を採用することへの関心を示し、欧州方式を採用した場合、欧州投資銀行が技術開発のために金融支援を行う用意ある旨述べた。
 24日、フェルナンデス大統領は、パラグアイにおいて、第37回メルコスール首脳会議に出席した。同会議では、社会政策、ホンジュラス情勢、新型インフルエンザ対策が中心に話し合われ、「加盟国・準加盟国首脳共同コミュニケ」等が採択されたほか、域内貿易の現地通貨決済について大枠で合意に至ったものの、これまで懸案となっている対外共通関税の二重課税撤廃、メルコスール関税協定、メルコスール議会運営等について大きな進展はなかった。
 24日、訪問先のパラグアイにおいて、フェルナンデス大統領は、ルーラ伯大統領と会談し、二国間問題について協議した。同会談の中で、ルーラ伯大統領は、フェルナンデス大統領に対して、亜が伯製品に課している非自動輸入許可措置により、伯の対亜輸出が減少していること等に懸念を表明した。これに対し、フェルナンデス大統領は、亜はメルコスール及びWTOで認められた措置を取っているだけである旨述べ、亜の非自動輸入許可措置を擁護した。 他方、フェルナンデス大統領は、品目毎に同通商問題をレビューするため、ジョルジ亜生産相及びジョルジ伯開発商工相が近々会談することを約束した。

 

3.経済指標の動向


(1)経済活動全般


 5月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比0.0%増、前月比0.1%増となった。前年同月比の伸びが0.0%増に止まるのは、2002年11月以来(4.7%減)のことである。
 7月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.2ポイント減少の0.6%、10年は前月の予測と同じ2.3%と予測されている。

 

(2)消費


(イ)小売

 6月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比16.2%増、前月比16.0%増と、大幅に回復し、昨年12月以来6ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが2桁台となった。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比11.8%増、前月比1.5%増と堅調であったが、昨年前半と比べると、引き続き前年同月比の伸びは鈍化している。


(ロ)自動車販売
 自動車協会(ADEFA)が発表した7月の自動車販売台数は、前年同月比20.7%減、前月比1.2%増と、5ヶ月連続で前月に比べ増加したものの、前年同月比の減少幅は拡大した。

 

(3)工業生産・建設活動


(イ)工業生産
 6月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.0%増、前月比0.6%減となり、6ヶ月ぶりに前年同月比の伸びがプラスに転じた。分野別では、引き続き、基礎金属、自動車、繊維等において大きな後退が見られた一方で、飲食料品、化学等は好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、  6月の工業生産は、前年同月比3.5%減とされている。
 6月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ0.8ポイント下落し、70.8%となった。化学、基礎金属及び自動車を除き、全体的な下落が見られた。


(ロ)建設活動
 6月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.3%増、前月比2.9%減と、4ヶ月ぶりに前年同月比の伸びがプラスに転じた。


(ハ)自動車生産
 自動車協会が発表した7月の自動車生産台数は、前年同月比24.1%減、前月比6.0%増と、3ヶ月連続で前月に比べ増加したものの、前年同月比の減少幅は拡大した。

 

(4)物価・雇用


(イ)物価
 7月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.6%、前年同月比5.5%の上昇となった。衣類、交通通信、医療等において、大きな上昇が見られた。経済相による国家統計局改革の発表後、初めて公表される消費者物価指数であったことから注目されたが、引き続き、公式統計は実態を下回っているのではないかと見られている。
 7月の卸売物価指数は、前月比1.2%、前年同月比は6.0%と、それぞれ上昇し、前年同月比の伸びは前月に比べ増加した。
REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント上昇の前年比6.9%と予測されている。


(ロ)雇用・賃金等
 6月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.5%増、前年同月比19.43%増となり、引き続き上昇幅が縮小した。前年同月比の伸びが20%以下となるのは、2008年1月以来のことである。
REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.08ポイント上昇の前年比14.57%の増、09年の失業率は前月の予測より0.1ポイント上昇の8.9%と予測されている。

 

(5)金融


(イ)株価指数であるMerval指数は、米国における株価下落等を受けて、8日、1,478ポイントまで下落したものの、その後、世界経済の先行きに対する懸念の後退等から上昇に転じ、31日には、前月末比132ポイント上昇の1,670ポイントと、年初来高値となった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、9日、1,125ポイントまで上昇したが、高い利回り等のため亜国債が買われたこと等から、月末にかけて低下をし、31日には前月末比84ポイント(8.0%)減の962ポイントとなった。


(ロ)為替レートについては、資本逃避圧力が和らいだこと等により、1ドル=3.8ペソ近辺で安定して推移した後、月末にかけてペソ安となり、31日には前月末比3.53センターボ(0.9%)ペソ安の1ドル=3.8305ペソとなった。コールレートは、中央銀行によるレポ金利の引き下げ等から下落し、31日には前月末比0.5ポイント減の10.31%となった。プライムレートは、20%台で安定して推移し、31日には前月末比0.02ポイント増の20.11%となった。民間金融機関預金残高は、31日において前年同月比末比8.2%増、前月末比0.1%減の1,777億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月比で11.2%の増となり、引き続き伸びが鈍化した。外貨準備高は、460億ドルを挟んで安定して推移し、31日には前月末とほぼ同じの460億ドルとなった。
 REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測より0.03ペソ高の1ドル=4.10ペソ、外貨準備高は前月の予測と同じ455億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(イ)財政収支
 経済省が発表した6月の財政収支は、歳入が前年同月比28.1%、一次歳出が同40.5%それぞれ増加し、一次財政黒字は同66.2%減の9億ペソと、4ヶ月連続で10億ペソを下回った。なお、総合収支は、16億ペソの赤字となり、2ヶ月ぶりに赤字に転落した。歳入には中央銀行からの納付金約30億ペソが含まれているとされ、これを除くと、一次財政収支は赤字に転落していたものと見られる。
 REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より20億ペソ減少の169億ペソと予測されている。


(ロ)税収
 経済省が発表した7月の税収は、前年同月比10.2%増の270億ペソとなった。付加価値税収が同13.9%増の7,800百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同8.4%減の4,424百万ペソ、輸出税収が同20.9%減の2,665百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同17.3%増の4,222百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比18%と引き続き大幅な減少となった一方で、国内分については同33.8%の増加となった。
 REMの平均では、09年の税収は前月の予測より26億ペソ減少の3,077億ペソと予測されている。


(ハ)債務残高
 経済省が発表した2009年第1四半期末の債務残高は、前期比93億ドル減の1,367億ドルとなった。債務が減少するとともに、ペソ安によりペソ建て債務の評価減が発生し、債務残高は減少した。

 

(7)貿易


 6月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比5%減の5,161百万ドル、輸入が同30%減の3,633百万ドルと、輸入が引き続き大きく減少したことを受けて、貿易黒字は同688%増の1,528百万ドルとなった。輸出については、農牧製品が前年同月比30%増となった一方で、一次産品は同44%減となった。大豆、燃料、アルミニウム等が減少した一方で、大豆粕等の食品工業くず、原油等が増加した。輸入については、資本財が増加した以外は、全分野において減少が見られ、特に、中間財については40%を越える減少となった。
 REMの平均では、09年の輸出は前月の予測より4億ドル増加の575億ドル、輸入は同7億ドル減少の420億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比18%増の155億ドルとなる)。

 

 
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