1.概要
(1)ブドゥー経済相は、残存民間債務に係る債券交換について、米国証券取引委員会(SEC)の承認を得た、4月に債券交換の内容の詳細が明らかになるだろうと述べた。
(2)2009年第4 四半期の実質GDPは、前年同期比2.6%増、前期比1.9%増となり、3期ぶりに前年同月比の伸びがプラスに転じた。2009年年間の実質GDPは、前年比0.9%増となった。
(3)株価指数であるMerval指数は、残存民間債務問題解決への期待等から上昇した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、残存民間債務問題解決への期待等から下落した。
(4)2月の消費及び生産については、引き続き回復の動きが見られた。市場見通しでは10年の成長率は4.4%、11年は4.2%と予測されている。
政府発表では、3月の消費者物価の伸びは9.7%となり、高い水準となったが、民間の推計においても引き続き上昇幅の拡大が見られ、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
2月の財政収支は、一次歳出の伸びが歳入の伸びより引き続き高いことを受けて、黒字幅は前年同月比24.7%減となった。他方、総合収支は、再び赤字に転落した。
(5)2月の貿易は、輸出が前年同月比3%増、輸入が同30%増となった結果、貿易黒字は同53%減となった。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
1日、フェルナンデス大統領は、通常国会開会式の演説中、二百周年基金創設を定める緊急大統領令第2010/09号を廃止する緊急大統領令に署名したと発表した。また、同大統領は、2010年に支払い期限を迎える国債元利支払を許可する新たな緊急大統領令にも署名したと発表した。
4日、ロドリゲス・ビダル連邦判事(行政訴訟担当)は、カマニオ下院議員及びソラ下院議員(ともにペロン党反キルチネル派)らが提出した保護請求を基に緊急大統領令第298/2010号(外準による国債元利支払のための債務削減基金の創設)について、一時停止する判決を下した。
9日、フェルナンデス大統領は、ベルナ上院議員(ペロン党反キルチネル派)が議会に提出した法案に係る議論を受け容れる意向を示した。
15日、立法手続きに係る両院常設委員会会合が開催された。与党(7名)が全員欠席したため、野党(9名)のみで審議が行われ、緊急大統領令第296/10号(二百周年基金の創設を定める緊急大統領令第2010/09号を廃止)及び同第298/10号(債務削減基金の創設)を否決する意見書をまとめた。
17日、セクター間の利害の違いを越えて、政府に対する批判的姿勢を示すことを目的として、AEA(亜企業協会)で昼食会が開催され、同協会幹部のほか、UIA(亜工業連盟)及び農牧業界団体の幹部が出席した。
17日、政府は、亜政府による地上デジタルテレビ放送に関する基本指針となる政令第364/10号を公表した。
18日、立法手続きに係る両院常設委員会の構成に関するラビエ・ピコ判事の決定により、緊急大統領令第296/10号(二百周年基金の創設を定める同第2010/09号の廃止)及び同第298/10号(債務削減基金の創設)の審議ができなくなったため、野党は下院本会議で廃止済みの同第2010/09号について審議することを提案し、一方、与党は、廃止法令を審議すること自体反対・批判したが、結局、採決が行われ、同緊急大統領令は、賛成131、棄権51で否決された。
30日、ロドリゲス・ビダル連邦判事(行政訴訟担当)による緊急大統領令第298/2010号(債務削減基金の創設)を凍結する仮処分に関し、行政高等裁判所は同仮処分を覆す判決を行なった。同判決により、政府は外貨準備を対外債務返済に充てることができることになった。
(2)物価・賃金
7日、2月のガソリン価格は、14%上がったと発表された。ブエノス・アイレス市内では、今年3度目の値上がりであり、2月上旬〜3月5日の価格上昇は、1リットル(ガソリン・プレミアム)は3.519ペソ→3.799ペソ→4.012ペソと上昇した。
8日、トマダ労働相は、家政婦雇用制度について、これまで明確でなかった産休(90日間)、婚姻(10日間)等の休暇を明確化するための法案を議会に提出した。
9日、労働総連盟(CGT)は、大統領官邸で行われたフェルナンデス大統領との会合に出席した。大統領は、「インフレと労働者の賃上げは、関連がない」と述べた。
12日、牛肉関係の業界代表者との定例会合(毎週金曜日)の中で、モレノ国内取引長官は、牛肉価格上昇の抑制を意図し、牛肉の主要13部位の「参考価格」リストを提示した。
15日、銀行員労組は、経営側(銀行4団体)と23.5%の賃上げ(今年1月1日以降の遡及適用)で合意した。これにより、銀行員の最低賃金は4,495ペソとなった。
25日、ラジオインタービュー中モジャーノ労働総同盟(CGT)代表は、インフレは具体的な問題であるとした。また、賃上げ要求は、価格上昇に基づいて行っているものであり、INDEC統計に基づいて行っているのではないと発言した。
28日、パイロット労組はアルゼンチン航空に対し40%の賃上げを要求するとした。(1月にはLANに対し、同じく40%の賃上げを要求し、25%の賃上げで合意している。)
30日、鉄鋼労組は25%の賃上げを要求しており、もし経営側との折り合いがつかなければストの可能性もあるとした。
31日、積荷労働者が賃上げ要求のためサンタフェ州の穀物輸出港を封鎖していた件に関し、労働者側と雇用者側(穀物会社や植物油メーカー)が27%の賃上げで合意に至り、港の封鎖が解除された。
(3)金融・財政
18日、亜政府は、米国証券取引委員会(SEC)に対し、@18Kフォームの修正版及びA150億ドルの新債券の登録に関する書類の修正版を提出した。これに関し、コセンティーノ金融次官は、「(これらの書類についてSECが正式に承認すれば)最終段階として、最後の書類を提出し、市場に債券交換オファーを行なうことになる」と述べた。
21日、IDB総会出席のためカンクン(メキシコ)に滞在中のブドゥー経済相は、債券交換に関して亜政府が提出した書類について、19日、米国証券取引委員会(SEC)から承認を得たと述べた。
25日、亜政府は、日本の当局に債券交換に関する書類を提出した。同書類によると、債券交換は4月12日から5月7日まで実施の予定とされている。また、ロレンシーノ金融長官は、同債券の支払いは6月18日になると発表し、支払い日程を明らかにした。
26日、亜政府は、日本の当局に債券交換に関する書類を再提出した。
28日、市場関係者は、1月、2月の資本流出額は、それぞれ10億ドル、15億ドルだったが、3月には7.5億ドル程度に縮小する見通しと述べた。
31日、ブドゥー経済相は、残存民間債権者に対する債券交換の内容は「4月14日に明らかになるだろう」と述べた。
(4)対外関係
19日、政府は牛肉輸出を停止した。この措置は、政府の口頭での指示によって行われたものであり、明文化された措置ではない。
28日、独の牛肉輸入業者らは、亜からの牛肉の輸入(ヒルトン枠及び一般の牛肉)が滞っているとして、駐独アルゼンチン大使に書簡で苦情を申し入れた。
22日、産業省は、中国製履物に対する反ダンピング調査の結果、同製品の最低FOB価格を一足につき13.38ドルと設定することを決定し、官報に掲載した。
29日、現在、マルビーナス諸島海域で石油探査活動を実施している英石油会社は、試掘井から採掘された石油の質は低く、不十分なものだったと発表した。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
2009年第4 四半期の実質GDP(INDEC発表)は、前年同期比2.6%増、前期比1.9%増となり、3期ぶりに前年同月比の伸びがプラスに転じた。政府消費が高い伸びを維持するとともに、民間消費及び輸出が前年同月比プラスに転じ、また、建設・設備投資は引き続き同マイナスとなるも下落幅は縮小した。なお、GDPデフレーターは同10.7%増、民間消費デフレーターは同10.9%となった。
2009年年間の実質GDPは、前年比0.9%増となった。政府消費が高い伸びを見せた一方、民間消費は前年同月比プラスを維持するもその伸び幅は大幅に縮小し、建設・設備投資及び輸出は大幅なマイナスとなった。また、輸入も大幅なマイナスとなった。なお、GDPデフレーターは同10.0%増、民間消費デフレーターは同11.7%増となった。
1月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比4.9%増、前月比0.4%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
3月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.8ポイント上昇の4.4%、11年は4.2%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
2月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比25.9%増、前月比2.4%増となり、2ヶ月連続で前年同月比の伸びが20%を超えた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比12.9%増、前月比0.9%減となり、2ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(ロ)自動車販売
3月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比47.5%増、前月比10.7%増と、引き続き大幅に増加した。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
2月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比11.2%増、前月比3.4%増となり、大幅に回復した。分野別では、自動車を初め、基礎金属、繊維、プラスチック等において大幅な伸びが見られた。なお、亜工業連盟(UIA)によると、2月の工業生産は、前年同月比15.9%増、前月比6.1%増となった。
2月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ10.3ポイント上昇し、76.9%となった。石油精製を除く全分野において上昇が見られた。
(ロ)建設活動
2月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比4.8%増、前月比0.5%増と、引き続き回復の動きが見られた。
(ハ)自動車生産
3月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比39.0%増、前月比31.3%増と、引き続き大幅に増加した。
(4)物価・雇用
(イ)物価
3月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%、前月比1.1%の上昇となり、前年同月比の伸びは2007年1月以来の高い水準となった。飲食料において前月比2.0%の上昇と、高い上昇が見られたほか、教育や家具・家庭用品において同1%を超える上昇となった。他方、民間の推計は引き続き公式統計から大幅に乖離しており、公式統計は依然として実態を下回っていると見られている。
3月の卸売物価指数は、前年同月比13.6%、前月比1.3%の上昇と、引き続き上昇幅が拡大した。
REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.9ポイント上昇の前年比12.2%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
2月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比17.23%増、前月比1.21%増となり、引き続き上昇幅が拡大した。
2009年下半期の貧困率(INDEC発表)は、前期比0.7ポイント減の13.2%、極貧率は、同0.5ポイント減の3.5%となった。なお、同指標の算出には消費者物価指数が用いられることから、その信憑性を疑問視する声もあり、貧困率及び極貧率は、より高かったとの指摘もある。
REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より1.45ポイント上昇の前年比19.73%増、10年の失業率は前月の予測より0.2ポイント下落の8.3%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数は、欧州の財政不安や海外主要株式市場の下落等により、5日まで2,200ポイント台で推移していたが、残存民間債務問題解決への期待等から、24日には前月末比218ポイント増の2,439ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、残存民間債務問題解決への期待等から、18日には700ポイントを割り、30日には前月末比147ポイント減の634ポイントとなった。
(ロ)為替レートは、1ドル=3.86ペソを挟んで推移した後、月末にかけてペソ安となり、31日には、前月末比1.7センターボ(0.4%)ペソ安の1ドル=3.88ペソとなった。コールレートは、月央にかけて下落した後、安定して推移し、31日には、前月末比0.13ポイント下落の9.06%となった。民間金融機関預金残高は、31日において、前年同月末比18.6%増、前月末比3.1%増の2,035億ペソとなり、初めて2,000億ドルを突破した。対民間貸出残高は、31日、前年同月末比10.5%増となり、8ヶ月ぶりに2桁台の伸びとなった。外貨準備高は、470億ドル台で推移し、31日には、前月末比3億ドル減の475億ドルとなった。
REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.02ペソ高の1ドル=4.17ペソ、外貨準備高は前月の予測と同じ504億ドルと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
2月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比28.2%、一次歳出が同32.3%それぞれ増加し、一次財政黒字は同24.7%減の12億ペソとなった。また、総合収支は、3億ペソの赤字と、再び赤字に転落した。
REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より6億ペソ減の135億ペソと予測されている。
(ロ)税収
3月の税収(経済省発表)は、前年同月比31.0%増の285億ペソとなり、17ヶ月ぶりに30%を超える伸びとなった。付加価値税収が同28.1%増の8,574百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同27.7%増の4,309百万ペソ、輸出税収が同51.5%増の3,272百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同27.0%増の3,768百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同17.7%増、税関分については同54.0%増となった。
REMの平均では、10年の税収は前月の予測より30億ペソ増の3,679億ペソと予測されている。
(ハ)債務残高
2009年第4四半期末の債務残高(経済省発表)は、前期末比55億ドル増の1,471億ドルとなった。手形等の債務の増加に加え、インフレ連動債に係る債務増等により債務残高が増加した。
(7)貿易
2月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比3%増の4,060百万ドル、輸入が同30%増の3,456百万ドルとなった結果、貿易黒字は同53%減の604百万ドルとなった。輸出については、乗用車、貴金属類、化学製品等工業製品や燃料が増加した一方、大豆粕等食品工業くず、大豆、小麦等穀物、大豆油等食料油といった一次産品や農牧製品が減少した。輸入については、燃料を除く全分野において増加が見られ、肥料、鉄鉱石、航空機、商用車、無線等の受信機等が増加した。
REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より2億ドル増の656億ドル、輸入は同2億ドル増の498億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比7%減の158億ドルとなる)。
(8)国際収支
2009年第4四半期の国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が前年同期比1,109百万ドル増の4,214百万ドルの黒字、所得収支が同633百万ドル減の2,594百万ドルの赤字等となった結果、経常収支は同371百万ドル増の1,584百万ドルの黒字となった。また、資本収支は、同1,220百万ドル減の2,770百万ドルの赤字となった。
2009年年間の国際収支は、貿易収支が前年比3,157百万ドル増の18,621百万ドルの黒字、所得収支が同268百万ドル増の47百万ドルの赤字等となった結果、経常収支は同4,256百万ドル増の11,292百万ドルの黒字となった。また、資本収支は、年前半の民間部門等における資本逃避を受けて、同1,047百万ドル減の9,129百万ドルの赤字となった。
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