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2009年9月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2009年10月作成
在アルゼンチン大使館

1.概要


(1)フェルナンデス大統領及びブドゥー経済相は、米ピッツバーグにて開催されたG20サミットに参加した。また、ブドゥー経済相は、米ニューヨークにおいて残存民間債権者らと、更に、米ピッツバーグにおいてラガルド仏経済相と会談を行った。


(2)政府は、インフレ連動債等に係る債務スワップの募集を締め切り、参加率は76%となった旨発表した。これにより、2012年までの利払いはネットで73億ペソ(約19億ドル)減少し、公的債務残高も名目で19億ペソ(約5億ドル)減少したとされる。


(3)2009年第2四半期の実質GDPは、設備投資・建設が引き続き大幅に減少するとともに、民間消費が前年同期比マイナスに転じた一方、政府消費は同プラスを維持し、輸出も同プラスに転じたこと等を受けて、前年同期比0.8%減、前期比0.3%増となった。


(4)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場の回復等を受けて上昇し、30日には、年初来高値をつけた。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、IMFとの関係修復や債務問題の解決に向けた政府の動きに対する期待感から下落した。


(5)8月の消費については、一部において弱さが見られた一方、生産については、一部において緩やかながら回復に向けた動きが見られた。また、9月の自動車の生産は、伯向け等の輸出の好調を背景に増加した。市場見通しでは09年の成長率は0.3%、10年は2.5%と予測されている。
  政府発表では、9月の消費者物価の伸びは前年同月比6.2%に止まったが、引き続き実態を下回っていると見られている。
 8月の一次財政収支は、議会選挙後、歳出の伸びは減速してきているものの、歳入に比べてなお高いことを受けて、黒字幅は前年同月比85.4%の減少と、引き続き大幅に縮小した。


(6)8月の貿易は、輸出が前年同月比40%減、輸入が同37%減となり、貿易黒字は同48%減となった。

 

2.経済の主な動き


(1)経済全般


 1日、ブドゥー経済相は、ブランチャードIMF調査局長と会談した。
 2日、主要農牧4団体から成る「連絡委員会」は、農牧緊急法の一部(農牧緊急宣言が発出されたブエノスアイレス州の一部の農牧生産者に対する180日間の輸出課徴金の免除・減免等)への大統領拒否権の発動に対する抗議活動を5日以降延長しないことを決定した。他方、農牧団体は、「農業の日」に当たる8日、抗議集会を全国複数箇所で実施した。
 10日、フェルナンデス大統領は、小麦及びトウモロコシの輸出制度の変更を発表した。主な変更内容は、(ア)小麦の年間生産量800トン以下又はトウモロコシの生産量1,240トン以下の生産者に対し、輸出課徴金を還付する、(イ)小麦については650万トン、トウモロコシについては800万トンを国内市場用に確保し、これを超過する分については、輸出業者は、国際価格から経費を控除した価格で生産者より買い取り、輸出することができる、等となっている。他方、主要農牧4団体は、上記の詳細を承知しておらず、署名はできないとし、署名式には参加しなかった。
 16日、チェッピ農牧・漁業・食糧長官が、個人的な理由により辞表を提出した。
 24〜25日、フェルナンデス大統領及びブドゥー経済相は、米ピッツバーグにて開催されたG20サミットに参加した。同会合後、同大統領は、会合の成果、特に雇用への配慮が国際金融危機を克服する中心的な要素として取り扱われているとして、「大変満足している」と表明した。また、G20が経済分野における国際協調の第一のフォーラムとして強化されたことについて、「大変重要である」旨強調した。

 

(2)物価・賃金


 2日、政府は、電気・ガス料金の値上げについて、8〜9月の料金については、当初予定していた値上げの30%に止めるよう措置した。

 

(3)金融・財政


 1日、政府は、インフレ連動債等に係る任意の債務スワップに関し、8月21日に発表された第1段階に続き、第2段階について発表した。スワップの対象債券はBODEN2014債のほか、1〜2月における債務スワップの対象とならなかった保証付借款(PG)5種であり、スワップにより引き渡される新債券はBonar2015債とされ、発行条件は、(ア)ペソ建て、(イ)満期は2015年、(ウ)金利はBadlar金利(大手銀行10行における大口定期預金(30日)の平均金利)+3%とされる。

 2〜3日、政府は、8月31日に締め切られた無申告の海外資産等に係る国内還流措置及び企業負担軽減措置(租税滞納に係る猶予措置等)の結果について、申告者は計20.5万人、申告額は計328億ペソ(約85億ドル)に達したと発表した。このうち、無申告の海外資産等に係る国内還流措置については、申告者は3.6万人、申告額は181億ペソ(約47億ドル)とされ、そのうちの94%が国内投資や国内預金に(税率は1%又は6%)、4.3%が海外投資に(同8%)、1.7%が亜国債(同3%)に向けられた。企業負担軽減措置については、申告者は16.9万人、申告額は147億ペソ(約38億ドル)とされ、これらの措置により、33万人が正規雇用者となった。
 7日、政府は、インフレ連動債等に係る債務スワップの募集を締め切り、参加率は76%となった旨発表した。計220億ペソ(約57億ドル)超のスワップ対象債務に対し、約167億ペソ(約43億ドル)の応募があり、このうち第1段階のスワップについては参加率は58%、第2段階については86%となった。 また、1〜2月にスワップが実施された保証付借款(PG)に係るスワップの再開分については、約5億ペソ(約1億ドル)の応募があった。これらのスワップにより、2012年までの利払いはネットで73億ペソ(約19億ドル)減少し、公的債務残高も名目で19億ペソ(約5億ドル)減少したとされる。
 15日、政府は、2010年予算法案を議会に提出した。2010年の実質GDP成長率は2.5%、インフレ率は6.6%、為替レート(平均レート)は1ドル=3.95ペソと見込まれている。また、2010年の一般行政部門の歳入は前年比16.9%増の2,738億ペソ、同歳出は同12.4%増の2,731億ペソ、中央政府全体の一次財政黒字はGDP比2.29%、一般行政部門のみでは同2.17%と見込まれている。歳出では、社会保障、教育・科学技術、社会開発及び経済社会インフラが重点分野とされている。
 17日、ブドゥー経済相は、下院予算委員会において、2010年予算法案について説明を行った。ブドゥー経済相は、同委員会及びその後の記者とのやりとりにおいて、同法案は、「バランスの取れた責任ある予算である」と述べ、また、来年の経済成長率について、「健全な財政を維持することが必要であり、(予想される)来年の経済成長率のうち最も低い経済成長率(piso)を盛り込んでいる」とした。さらに、同相は、パリクラブ債務問題について、「民間が融資を得ることを可能にするものであることから、アジェンダの中で最も重要なものの一つである」とし、「年末までに、パリクラブとの合意に至れば、大変素晴らしいことであろう」と述べた。他方、返済方法については、「現金による(一括)返済は、良い選択肢ではない。(一括返済する)代わりに、どのような利点が得られるのか定かではない」と述べた。
 21日、中央銀行は、レポ金利及びリバース・レポ金利を0.25ポイント引き下げ、それぞれ11.25%、9.25%とした。中央銀行による利下げは、本年に入り3回目、計1.25ポイントの引き下げとなる。
 24日、ブドゥー経済相は、米ニューヨークにおいて、残存債権者の要望等を聴取し、亜国の国際金融市場への復帰の可能性を探るため、残存民間債権者らと会談を行った。また、同相は、米ピッツバーグにおいて、ラガルド仏経済相とパリクラブ債務問題等について会談を行った。

 

(4)対外関係


 2〜4日、タイアナ外相は、インドを訪問し、シン印首相と会談したほか、キアラディア外務副大臣(通商・国際経済担当)とともに、ニューデリーにて開催されたWTO非公式閣僚会合に出席した。また、両国外相間で、農業、南極、行政分野における協力の推進に関する3つの覚書が署名された。
 16日、米州開発銀行(IDB)理事会は、地方道路改善・維持を目的とする対亜融資2億ドルを承認した。
 18日、政府は、タイ、インドネシア及び中国産のタイヤ並びにニュージーランド産グラスファイバーに対し、アンチダンピング措置を適用することを決定した。
 21日、訪米中のフェルナンデス大統領は、モレノIDB総裁と会談し、亜とIDBの関係につき協議した。両者は、中南米におけるインフラ整備プロジェクトへの融資を念頭にIDBの資金を強化するという亜の提案をG20サミットに持ち込むことで合意した。
 21日、ジョルジ生産相は、伯サンパウロにおいて、ジョルジ伯開発商工相と二国間経済関係について会談を行った。亜伯間貿易について話し合いが行われたほか、石油・天然ガスに係る生産統合を進めることで合意した。
 24〜25日、政府は、パラグアイ産CD−R、中国産家庭用品、中国及びインドネシア産ポリエステル糸並びにインドネシア及び伯産紡績糸に対し、アンチダンピング措置を適用することを決定した。
 28日、世銀理事会は、出生プラン、公共保健基礎的機能プロジェクト及び新型インフルエンザ対策向け対亜融資10.5億ドルを承認した。

 

3.経済指標の動向


(1)経済活動全般


 2009年第2四半期の実質GDP(INDEC発表)は、設備投資・建設が引き続き大幅に減少するとともに、民間消費が前年同期比マイナスに転じた一方、政府消費は同プラスを維持し、輸出も同プラスに転じたこと等を受けて、前年同期比0.8%減、前期比0.3%増となった。実質GDP成長率が、前年同期比でマイナスとなるのは、2002年第4四半期以来のことである。また、GDPデフレーターは前年同期比8.7%増、民間消費デフレーターは同11.8%増となった。なお、民間においては、実質GDP成長率は、より低かったものと見られている。
 7月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比1.5%減、前月比0.7%増となり、3ヶ月連続で1%を超えるマイナス幅(前年同月比)となった。
 9月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、09年の実質GDP成長率は前月の予測より0.2ポイント減少の0.3%、10年は同0.1ポイント上昇の2.5%と予測されている。

 

(2)消費


(イ)小売


 8月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比6.0%増、前月比5.8%増と、前年同月比の伸びがプラスに転じた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比8.0%増、前月比2.8%減となった。前年同月比の伸びが1桁台に止まるのは、2006年10月以来のことである。


(ロ)自動車販売


 自動車協会(ADEFA)が発表した9月の自動車販売台数は、前年同月比19.9%減、前月比0.0%増と、ほぼ横ばいであった。

 

(3)工業生産・建設活動


(イ)工業生産


 8月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.7%減、前月比0.6%増となり、2ヶ月連続で前年同月比の伸びがマイナスとなったものの、前月比では2ヶ月連続でプラスとなった。分野別では、引き続き、基礎金属、自動車、石油精製等において後退が見られた一方で、飲食料品、化学等は好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、8月の工業生産は、前年同月比9.7%減、前月比0.1%減とされている。
 8月の稼働率(INDEC発表)は、前月に比べ3.2ポイント上昇し、74.6%となった。化学及びタバコを除き、全体的な上昇が見られた。


(ロ)建設活動


 8月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比3.2%減、前月比1.8%増となり、2ヶ月連続で前年同月比の伸びがマイナスとなった。他方、前月比では2ヶ月連続でプラスとなった。


(ハ)自動車生産


 自動車協会が発表した9月の自動車生産台数は、前年同月比13.1%減、前月比14.4%増と、伯向け等の輸出の好調(前月比25.0%増)を背景に増加した。

 

(4)物価・雇用


(イ)物価


 9月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.7%、前年同月比6.2%の上昇となった。衣類及び教育において前月比1.0%を超える上昇が見られたほか、飲食料も同0.9%の上昇となった。民間においては、公式統計は、引き続き実態を下回っているのではないかと見られている。
 9月の卸売物価指数は、前月比0.8%、前年同月比6.6%の上昇となった。
 REMの平均では、09年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比6.7%と予測されている。


(ロ)雇用・賃金等


 8月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.48%増、前年同月比16.35%増となった。前年同月比の伸びが16.35%増に止まるのは、2005年8月以来のことである。
 2009年上半期の貧困率(INDEC発表)は13.9%、極貧率は4.0%と、引き続き低下した。しかし、同指標の算出には消費者物価指数が用いられることから、その信憑性が疑われており、民間においては、貧困率及び極貧率は、より高かったものと見られている。
 REMの平均では、09年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.24ポイント上昇の前年比15.70%の増、09年の失業率は前月の予測と同じ9.0%と予測されている。

 

(5)金融


(イ)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場の回復等を受けて上昇し、30日には、前月末比293ポイント上昇の2,075ポイントとなり、年初来高値をつけた。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、IMFとの関係修復や債務問題の解決に向けた政府の動きに対する期待感から下落し、30日には前月末比161ポイント減の789ポイントとなった。


(ロ)為替レートについては、資本逃避圧力が和らいだ一方、一部海外資金が国内に流入したこと等により、1ドル=3.8ペソ台前半で安定して推移し、30日には前月末比1.0センターボ(0.2%)ペソ安の1ドル=3.8427ペソとなった。コールレートは、中央銀行によるレポ金利の引き下げ等から下落し、30日には前月末比0.44ポイント減の9.63%となり、本年に入り初めて10%を下回った。民間金融機関預金残高は、30日において前年同月末比8.1%増、前月末比0.6%増の1,840億ペソとなった。対民間貸出残高は、前年同月末比6.7%増となり、引き続き伸びが鈍化した。外貨準備高は、中央銀行がドル買い 介入を行ったこと等から、月末にかけて増加し、30日には前月末比3億ドル増の453億ドルとなった。
 REMの平均では、09年の為替レートは前月の予測より0.07ペソ高の1ドル=3.96ペソ、外貨準備高は同4億ドル増加の460億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(イ)財政収支


 経済省が発表した8月の財政収支は、歳入が前年同月比5.1%、一次歳出が同22.0%それぞれ増加し、一次財政黒字は同85.4%減の5億ペソと、6ヶ月連続で10億ペソを下回った。議会選挙後、歳出の伸びは減速してきているものの、歳入に比べてなお高く、一次財政黒字は引き続き大幅に縮小した。なお、総合収支は、2億ペソの赤字となり、3ヶ月連続で赤字となった。
 REMの平均では、09年の一次財政黒字は前月の予測より16億ペソ減少の127億ペソと予測されている。


(ロ)税収


 経済省が発表した9月の税収は、前年同月比9.8%増の262億ペソとなった。付加価値税収が同8.6%増の7,923百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同3.0%減の4,265百万ペソ、輸出税収が同42.3%減の2,381百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同27.3%増の3,589百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、税関分については前年同月比13.0%減と大幅な減少となった一方で、国内分については同21.7%の増加となった。
 REMの平均では、09年の税収は前月の予測より16億ペソ減少の3,048億ペソと予測されている。


(ハ)債務残高


 経済省が発表した2009年第2四半期末の債務残高は、前期比40億ドル増の1,406億ドルとなった。債務が増加する一方、為替レートが比較的安定していたことにより、これまでのようなペソ建て債務の評価減が発生しなかったことを受けて、債務残高は増加した。

 

(7)貿易


 8月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比40%減の4,401百万ドル、輸入が同37%減の3,246百万ドルとなり、貿易黒字は同48%減の1,155百万ドルとなった。輸出については、一次産品が前年同月比52%減と、引き続き大きく減少した。大豆油、ひまわり油、大豆、小麦等の穀物、燃料等が減少した一方で、銅鉱石等が増加した。輸入については、引き続き全分野において減少が見られ、燃料が前年同月比19%減となった以外は、同25%を超える減少が見られた。特に、中間財については同46%減となった。
 REMの平均では、09年の輸出は前月の予測より7億ドル減少の559億ドル、輸入は同2億ドル減少の399億ドルと予測されている(この場合、09年の貿易黒字は前年比27%増の160億ドルとなる)。

 

(8)国際収支


 2009年第2四半期における国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が前年同期比3,789百万ドル増の4,513百万ドル、所得収支が同292百万ドル減の▲2,083百万ドルなどとなった結果、経常収支は同3,732百万ドル増の4,513百万ドルとなった。また、資本収支は、議会選挙前の不確実性等を嫌気した民間部門等における資本逃避を受けて、同2,295百万ドル減の▲4,651百万ドルとなり、5四半期連続で出超となった。

 

 
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