1 概要
(1)残存債務(ホールドアウト)問題に関し、亜政府は2005年及び2010年の債券交換の参加者と同様の条件の支払いを提案したが、債務交換に応じていない原告(NMLファンド等)はこれを拒否した。再編債務の利払い猶予期限である30日までに原告との合意に至らず、右利払いが実行されなかったことから、いわゆる「テクニカル・デフォルト」状態に陥った。これに対し、亜政府は利払いの信託受託者(ニューヨーク・メロン銀行)の信託口座に入金したことをもってデフォルトに当たらないと主張しつつも、原告側との協議は継続する意向を示した。
(2)7月INDEC発表のインフレ率は前月比1.4%であったのに対し、民間コンサルタント会社8社推計のインフレ率は、前月比2.47%、前年同月比39.7%の上昇となった。7月末の為替レートは、前年同月比49.1%ペソ安の1ドル=8.2102ペソとなった。
2 経済の主な動き
(1)経済全般(ホールドアウト問題)
3日、米州機構(OAS)外務大臣特別会合にて、ティメルマン外相及びキシロフ経済相がホールドアウト問題について亜政府の立場を説明するスピーチを行い、亜政府の新債券保有者への支払を可能とすることを要求する宣言を採択した。同宣言の採択について米国及びカナダは棄権した。また、亜政府は、債務支払の仲介役であるニューヨーク・メロン銀行及びユーロクリアー(国際決済機関)に対し、債務再編に応じた新債券保有者への支払を求める書簡を発した。
7日、キシロフ経済相を含む亜政府代表団と仲裁人(Special Master)ダニエル・ポラック氏との会合が行われ、亜政府側から、判決はそのまま解釈すると実施不可能であること、債券全てを巻き込む可能性があるために判決効力の一時停止(Stay)の再発動が必要であること、新債券保有者の利払金受取を妨げるものであることを説明した。
11日、亜政府代表団とポラック仲裁人との再会合が行われ、亜政府側から判決効力の一時停止(Stay)の再発動と、RUFO条項の適用を回避する保証を要請した。
16日、フェルナンデス大統領は、BRICS-UNASUR首脳会合の演説の中で、新債券保有者への支払の意思を表明するとともに、原告側を交渉に応じないと非難し、デフォルトにはあたらないことを主張した。
22日、米国のグリエサ判事は、判決に関係のない新債券保有者への債務支払(亜政府が6月26日にニューヨーク・メロン銀行が亜中銀内に保有する口座に入金したが、扱いが未定となっている5.39億ドルについて、判決対象となるドル建・NY準拠法の債券ではない欧州及び日本の新債券保有者に対する支払)ができなくなっている件について、関係者との会合を開催した。これには、新債券保有者の団体(Euro bondholder (欧米債券保有者の団体))等が参加した。 同判事は、仲裁人を通じて、亜政府と原告に話し合うことを要請したが、止め置かれている利払金の取扱いについては、特に言及をしなかった。グリエサ判事の会合の前に、亜政府は、13ページにわたる意見書を同判事に送付し、判決効力の一時停止(Stay)を再発動させるよう再度求めていたが(こうした法的保証(Paraguas legal)がない限り、RUFO条項の失効する2015年までに原告側と話し合いに応じるのは亜にとって危険であり不可能だと説明)、同判事はこの要求を斥けた。
24日、グリエサ判事の指示に従って、ポラック仲裁人は亜政府と会合を行った。亜政府は、RUFO条項の適用を回避する金融ツール(保険付保)の必要性と判決効力の一時停止(Stay)を再度要求したが、原告との直接対話は拒否した。
29日、メルコスール首脳会合に出席した「フェ」大統領は、今次ホールドアウト問題について言及し、参加国の賛同を得て、同会合にて亜の立場を支持する特別宣言が発出された。
30日、ポラック仲裁人、亜政府及び原告の会合が行われたが(25日以降断続的に開催)、合意には至らなかった。同会合に出席したキシロフ経済相は、会合後の記者会見において、これまでの亜政府の姿勢を説明し、今後も同姿勢を変えることはしないことを強調した。
31日、原告との合意に至らなかったことを受けて、「フェ」大統領は、国民に対して演説を行った。同演説においては、原告への非難とともに、国民への本問題への団結が呼びかけられた。「フェ」大統領の演説前に、キシロフ経済相の記者会見が行われ、今回の事象はデフォルトに当たらないことと、仮に繰上償還が請求された場合には裁判所に持ち込むとの発言があった。
(2)貿易・通商
15日、ヤマハ発動機株式会社は、 アルゼンチン・ブエノスアイレス市郊外のヘネラル・ロドリゲス市に建設していたヤマハモーターアルゼンチンの二輪車新工場を完成させ、工場開所式が開催された。旧工場は閉鎖し、新工場に生産を集約する。
(3)金融・財政
28日、本年5月の合意に基づき、対パリクラブ債務に関する返済(第一回目の前払金の支払い)が行われた。そのため外貨準備のうち6億4200万ドルがその支払いに充てられた。
31日、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、亜国債を部分的なデフォルトを意味する「選択的デフォルト(Default Selectivo)」に格下げした。
(4)物価・賃金
21日、労働省は主要労組の今年の労組交渉による賃上げ率は平均29.7%となったと発表した。
3 経済指標の動向
(1)経済活動全般
5月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比0.2%減、前月比0.5%増となった。
(2)消費
(ア)自動車販売
7月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比33.5%減、前月比2.0%増となった。
(3)工業生産・建設活動
(ア)工業生産
6月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比1.2%減、前月比2.1%増となった。分野別では、基礎金属等において増加が見られた一方で、ゴム・プラスチック製品等において減少が見られた。
6月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比0.4%減、前月比0.3%増の71.1%となった。分野別では、基礎金属等において上昇が見られた一方で、石油化学や飲食料品等において下落が見られた。
(イ)建設活動
6月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比0.2%増、前月比3.6%増となった。
(ウ)自動車生産
7月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比31.4%減、前月比3.1%減となった。
(4)物価・雇用
(ア)物価
INDEC発表の全国規模の新しいCPI統計(IPCNu)では、7月のインフレ率は前月比1.4%の上昇とされた。交通・通信において前月比2.6%増、及び、娯楽において前月比3.1%増と高い伸びが見られた。
これに対し、7月の議会インフレ率(一部の野党議員が発表している民間コンサルタント会社8社の推計を平均した値、首都圏のみの調査に基づく)は、前年同月比39.7%、前月比2.47%の上昇と発表された。7月のブエノスアイレス市発表インフレ率(Ipcba)は、前年同月比39.8%、前月比2.2%の上昇となった。
7月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前年同月比27.9%、前月比1.3%の上昇となった。
(イ)雇用・賃金等
6月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比33.5%増、前月比3.00%増となった。
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、7月末には、前月末比301ポイント増の8,188ポイントとなった。
また、EMBI+指数は、7月末には前月末比84ポイント減の634ポイントとなった。(なお、同指数は、主にドル建て流通国債に対する市場の評価を表すが、亜政府は、2002年以降国外でドル建て新規国債を発行していないことに留意する必要がある。)
(イ)為替レートは、ペソ安となり、7月末には前月末比0.99%ペソ安、前年同月比49.15%ペソ安の1ドル=8.2102ペソとなった。
コールレートは、7月末には前月末比2.50%減の10.50%となった。民間金融機関預金残高は、7月末において、前月末比31.2%増の8,234億ペソとなった。対民間貸出残高は、7月末には5,343億ペソとなった。
外貨準備高は、7月末には前月末比2.75億ドル減の290.03億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
6月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比55.3%増、一次歳出が同55.9%増となった結果、基礎的財政収支は2.87億ペソの赤字となった。また、総合収支は、166.77億ペソの赤字となった。
(イ)税収
7月の税収(以下、経済省発表)は、前年同月比33.4%増の107,089億ペソ、付加価値税収が同29.9%増の28,000百万ペソ(うち、国内分については同29.3%増、税関分については33.0%増)、法人及び個人に係る所得税収が同40.1%増の21,930百万ペソ、輸出税収が同65.5%増の9,363百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同24.5%増の18,779百万ペソとなった。
(7)貿易
6月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比2.2%減の7,387百万ドル、輸入が同6.1%減の6,008百万ドルとなった結果、貿易黒字は同13.5%増の1,379百万ドルとなった。
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