2015年3月アルゼンチンの経済情勢
2015年4月作成
在アルゼンチン大使館
概要
(1)ホールドアウト(残存債務)問題に関連し、グリエサ米判事はシティバンクとNMLファンド等との間の合意を受け、それまでの方針を覆す形でシティバンクによる亜準拠法の新債券利払い許可を下したが、実際の利払い業務を請け負うEuroclear社による利払いについては差し止めるとの判断を下したことで、再び債権者に対する利払いが行われない状況に戻ってしまった。これに対し、亜政府はシティバンクの対応に強い反発を示した。
(2)3月の国家統計局(INDEC)発表のインフレ率は前月比1.3%であったのに対し、民間コンサルタント会社8社推計のインフレ率は、前月比2.12%の上昇となった。3月末の為替レートは、前年同月比10.11%ペソ安の1ドル=8.8197ペソとなった。
経済の主な動き
(ア)ホールドアウト問題
(1)12日、ニューヨーク連邦地裁のグリエサ米判事は、シティバンクが行っていた31日期限のドル建て亜準拠法新債券に対する利払い(約370万ドル)許可の申請を却下する判決を下した。
(2)16日、亜経済省はシティバンクに対し、債権者に対する利払いを行うか否かにつき48時間以内に回答するよう要求するとともに、仮に支払いを行わない場合には亜におけるシティバンクの営業許可を取り消すこともあり得る旨書面にて通知した。また、キシロフ経済・財政大臣は、本件利払いの不履行はしかるべき結果をもたらすことになると警告した。
(3)17日、シティバンクはニューヨーク連邦地裁に対し、具体的な方法は検討中としつつも、亜債券管理業務から撤退するとの意向を示した上で、再度亜準拠法新債券に対する利払い許可を申請した。
(4)19日、ヒラルド全国証券委員会会長は、シティバンク・アルゼンチン本店を訪れ、上記債券管理業務からの撤退の前に、31日期限の新債券利払いを実施すべきとの通告を行った。なお、同日、ニューヨーク裁判所は、ミートゥー債権者(NMLファンド等と同様の扱いを要求する債権者)を含む新債券保有者を公表したところ、亜の債務支払い総額は54億ドルに及ぶとされた。(既にNMLファンド等が求めている支払い総額は約19億ドル)
(5)21日、グリエサ米判事は、シティバンクに対し、3月31日及び6月30日の亜準拠法の新債券利払い許可した(12日には本件利払い許可申請を却下していた)。また、本許可後、NMLファンド等は声明を発表し、グリエサ判事の利払い許可はNMLファンド等とシティバンクとの間で至った合意に基づいて下されたとしつつ、合意の内容については、シティバンクがグリエサ判事による利払い差し止めの判決に対する上訴を行わないこと、及び利払い許可はシティバンクのみに認めるというものであった旨明らかにした。なお、本件合意にはグリエサ判事も署名をしている。
(6)25日、グリエサ判事は、亜国の利払い業務を請け負うベルギーのEuroclear社による利払いを差し止める命令を下した。一方、キシロフ経済・財政大臣は、シティバンクが債権者に対する利払いを保証すべきところを自社の責任免れのみの対応に終始したと強く批判しつつ、NMLファンド等及びグリエサ判事と交わした合意の違法性を精査しながら、同社に対する制裁を検討していくと述べた。
(7)26日、Euroclear社は声明を発表し、本件利払いを行わない方針を示した。一方、アルバレス経済副大臣は、グリエサ判事の決定により債権者からの裁判が多く提起されることを懸念した上で、同判事の決定を強く批判しつつ、あくまで亜政府は利払いを行うとの立場を強調した。
(イ)その他
(1)20日、INDECは、2014年の当国の経済成長率(速報値)を2013年比で+0.5%、2014年第4四半期については前年同期比で+0.4%と発表した。
(2)26日、亜政府は緊急大統領令の公布により、経済・財政省内に新たに経済調整・競争力向上庁を設置するとともに、亜国港湾・海運当局である港湾・水上運送副庁を内務・運輸省から経済・財政省に移管することを発表した。
(3)31日、交通機関の労組団体を中心に多くの労組がストを実施し、公共部門に影響が出た。所得税の改正が主な要求内容とされる。
経済指標の動向
(1)経済活動全般
1月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比増減なし、前月比0.1%減となった。
(2)消費:自動車販売
3月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比6.1%増、前月比19.7%増となった。
(3)工業生産・建設活動
(ア)工業生産
2月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比2.2%減、前月比0.4%減となった。
2月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比1.3%減、前月比6.1%減の68.8%となった。
(イ)建設活動
2月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比8.2%増、前月比1.9%増となった。
(ウ)自動車生産
3月の自動車生産台数(ADEFA発表)は、前年同月比10.3%減、前月比14.7%増となった。
(4)物価・雇用
(ア)物価
INDEC発表の全国規模のCPI統計(IPCNu)では、3月のインフレ率は前年同月比16.5%、前月比1.3%の上昇とされた。
これに対し、3月の議会インフレ率(一部の野党議員が発表している民間コンサルタント会社8社の推計を平均した値、首都圏のみの調査に基づく)は、前年同月比29.81%、前月比2.12%の上昇と発表された。3月のブエノスアイレス市発表インフレ率(Ipcba)は、前年同月比28.0%、前月比1.7%の上昇となった。
3月の卸売物価指数(INDEC発表)は、前年同月比15.1%の上昇となった。
(イ)雇用・賃金等
2月の給与指数(INDEC発表)は、前月比0.92%増となった。
(5)金融
(ア)Merval指数(株価指数)は、3月末には、前月末比1,236ポイント増の10,837ポイントとなった。
また、EMBI+指数は、3月末には前月末比16ポイント増の626ポイントとなった。(なお、同指数は、主にドル建て流通国債に対する市場の評価を表すが、亜政府は、2002年以降国外でドル建て新規国債を発行していない(債権交換を除く)ことに留意する必要がある。)
(イ)為替レートは、ペソ安となり、3月末には前月末比1.09%ペソ安、前年同月比10.11%ペソ安の1ドル=8.8197ペソとなった。
コールレートは、3月末には前月末比1.5%増の17.00%となった。民間金融機関預金残高は3月末には10,118億ペソ、対民間貸出残高は3月末には6,260億ペソとなった。
外貨準備高は、3月末には前月末比0.20億ドル増の314.90億ドルとなった。
(6)財政
(ア)財政収支
2月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比27.1%増、一次歳出が同34.1%増となった結果、基礎的財政収支は135.479億ペソの赤字となった。また、総合収支は、163.927億ペソの赤字となった。
(イ)税収
3月の税収(以下、経済省発表)は、前年同月比33.9%増の1054.00億ペソ、付加価値税収が同32.8%増の339.06億ペソ(うち、国内分については同40.4%増、税関分については17.1%増)、法人及び個人に係る所得税収が同40.2%増の209.39億ペソ、輸出税収が同12.8%減の46.59億ペソ、社会保障雇用主負担金が同44.6%増の176.28億ペソとなった。
(7)貿易
2月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比24.6%減の4,064百万ドル、輸入が同25%減の4,011百万ドルとなった結果、貿易黒字は53百万ドルとなった。 |