経済情報
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2010年8月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2010年9月作成
在アルゼンチン大使館

1 概要


(1)中央銀行理事会は、2010年通貨プログラムにおける通貨供給量の増加目標を上方修正することを承認した。


(2)株価指数であるMerval指数は、米中古住宅販売戸数の急減等を受けて、世界景気の回復ペースに対する懸念の高まりから、2,300ポイントを下回る場面も見られたものの、ほぼ横ばいで推移した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、横ばいで推移した後、世界景気の回復ペースに対する懸念の高まりから、月末にかけて上昇した。


(3)7月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは10年の成長率は7.1%、11年は4.8%と予測されている。
 政府発表では、8月の消費者物価の伸びは前年同月比11.1%となり、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、公式統計と民間の推計との乖離は拡大を見せつつある。
 7月の財政収支は、税収の好調等を受けて前年同月比410.6%増となり、総合収支も、再び黒字となった。


(4)7月の貿易は、輸出が前年同月比22%増、輸入が同43%増となった結果、貿易黒字は同34%減となった。

 

2 経済の主な動き


(1)経済全般


 2日、野党議員等は、年金増額法案について、上院本会議において可決に足る支持を確保するのは困難と判断し、先に下院にて審議する旨決定した。
 4日、ブドゥー経済相は、ブエノスアイレス市商工業連盟(FECOBA)における記者会見において、本年の経済成長率は7%近くになる旨発言した。
 11日、上院本会議において、国家統計局(INDEC)改革法案が賛成多数で可決され、下院に送付された。本法案は、同局に対する不正な干渉等を抑制するため、同局を経済省から独立した組織とし、職員の再編成、幹部役員の選出方法の改正等の改革を行うもので、同改革の期限を150日間と規定している。
 12日、エチェガライ連邦歳入庁(AFIP)長官は、輸入品の陸送を簡素化する措置を発表した。
 18日、下院本会議において、年金増額法案が、賛成多数で可決され、上院に送付された。
 19日、フェルナンデス首相は、仮に年金増額法案が成立した場合、政府は拒否権を発動する旨公言した。
 19日、キアラディア外務副大臣(通商・国際経済担当)の辞表が受理され、クレクレル外務次官補(通商・国際経済担当)が、新外務副大臣(通商・国際経済担当)に任命された。
 24日、立法権限委任法が失効した。これに伴い、農作物の輸出課徴金を定める権限が行政府から立法府に返還されることとなった。ただし、同返還がなされても、議会が新たな法律を通じて新たな輸出課徴金の制度を確立するまでは、現在の制度が維持されるとされる。

 

(2)物価・賃金


 5日、国家雇用・生産性・最低賃金評議会が開催され、現行、月額1,500ペソの最低賃金を、本年9月以降1,740ペソ、来年1月以降1,840ペソ(計22.66%の引き上げ)とすることで合意がなされた。
 5日、銀行労組は、銀行労働者の所得を所得税の課税対象外とすること等を求めてストライキを行った。
 9〜10日、穀物集積関連労組は、賃上げ等を求めてストライキを行い、10日、同労組と経営者側は、賃上げについて合意に至り、ストライキが解除された。
 17〜24日、パブロ・モジャーノ氏(モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長の子息)率いるトラック運転手労組は、テチント・グループが所有する製鉄会社シデラル社に対し、同社の下請会社で働く約4,000人のトラック運転手の同社による正規雇用等を要求し、ブエノスアイレス州の5か所の同社工場を封鎖した。
 18日、経済省国内取引庁は、ガソリン等液体燃料の価格を本年7月31日の価格に戻すことを義務付ける決定を行った。8月以降値上げを行った一部大手ガソリンスタンドを狙い撃ちした措置であると見られている。
 23〜24日、トラック運転手労組及びシデラル社が、トマダ労働相の仲介のもと会談を行った結果、労組側は15日間の工場封鎖解除を約束し、シデラル社側は労働法規の遵守を確約することで、暫定的合意に至った。
 25〜26日、医療機関労組は、32%の賃上げを求めてストライキを行った。

 

(3)金融・財政


 18日、フェルナンデス大統領は、州債務削減連邦プログラムに基づき、コルドバ州、エントレリオス州、フフイ州、ラリオハ州、リオネグロ州、サルタ州、サンフアン州及びティエラデルフエゴ州との合意書に署名した(ブエノスアイレス州、トゥクマン州及びチャコ州とは既に署名済み)。
 26日、中央銀行理事会は、2010年通貨プログラムにおける通貨供給量の増加目標を上方修正することを承認した。これにより、M2の増加目標は、本年9月において21.8〜28.8%(ベース24.1%。変更前は、13.0〜20.0%(ベース15.3%))、本年12月において22.4〜29.4%(ベース24.8%。変更前は、11.9〜18.9%(ベース14.3%))とされた。マルコ・デル・ポント中銀総裁は、本年におけるGDP成長率の見込みを9.1%とした上で、今回の目標変更は通貨供給量の増加を経済成長率に適合させるものであり、価格上昇を加速させるものではない、これによりドル買い介入を継続する余地ができる旨発言した。

 

(4)対外関係


 2〜3日、亜サンフアン州サンフアン市において、第39回メルコスール共同市場審議会(CMC)及びメルコスール首脳会合が開催され、各国首脳及び代表が出席し、メルコスール関税コードの採択、対外共通関税の二重課税撤廃及び関税収入の分配のためのガイドラインの採択、メルコスール・エジプト間自由貿易協定の締結等がなされた。
 2〜3日、ドミンゲス農牧相は、貿易ミッションを率いてインドを訪問し、パワール・インド農業相と会談した。パワール大臣は、今後数年間、インドでは大豆油・ヒマワリ油への一定の需要が見込まれるとし、「亜は、農産品の信頼できる供給国である」と述べた。また、両者は、亜産豆類の対インド輸出増加の可能性、植物衛生分野における協力、食料安全等についても協議した。
 10〜11日、ティメルマン外相は、外相就任後初めて訪米し、クリントン米国務長官等と会談し、中南米情勢、二国間貿易関係強化の重要性等について協議した。
 23〜24日、ジョルジ産業相は、農業機材等の分野に従事する中小企業約20社から成る貿易ミッションを率いてニュージーランドを訪問し、ニュージーランド政府関係者及び企業関係者と会合を行い、二国間貿易・投資関係の強化を図った。
 25日、ティメルマン外相は、訪亜中のヴァンローン・カナダ国際貿易相と会談し、二国間関係及びカナダ・メルコスール関係の強化、G20等の国際場裡における二国間協力等について協議した。

 

3 経済指標の動向


(1)経済活動全般


 6月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比11.1%増、前月比0.6%減と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
 8月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.5ポイント上昇の7.1%、11年は同0.4ポイント上昇の4.8%と予測されている。

 

(2)消費


(ア)小売


 7月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比37.9%増、前月比3.0%減と、再び前年同月比の伸びが30%を超えた。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比12.6%増、前月比2.2%減となり、7ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。


(イ)自動車販売


8月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比44.8%増、前月比14.8%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(3)工業生産・建設活動


(ア)工業生産


 7月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比7.9%増、前月比0.6%減と、引き続き好調であったものの、前年同月比の伸びは鈍化した。寒波の影響により大企業へのガス供給が制限されたことの影響が指摘されている。分野別では、引き続き、自動車、基礎金属、繊維等において大幅な伸びが見られたほか、金属機械等も好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、7月の工業生産は、前年同月比8.0%増、前月比2.3%減となった。
 7月の稼働率(INDEC発表)は、前月比0.2ポイント上昇の75.2%となった。食品、化学、基礎金属、金属機械等において上昇が見られた一方、自動車、繊維等において下落が見られた。
 REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント上昇の前年比8.2%増と予測されている。


(イ)建設活動


 7月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比7.2%増、前月比2.0%減となり、引き続き好調であったものの、前年同月比の伸びは鈍化した。


(ウ)自動車生産


 8月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比52.6%増、前月比26.4%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(4)物価・雇用


(ア)物価


 8月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比11.1%、前月比0.7%の上昇となり、引き続き高い水準となった。医療において前月比3.1%の上昇と、高い伸びが見られたほか、衣類及び家具・家庭用品については同1.0%の上昇となった。また、飲食料においても、同0.8%の上昇と、引き続き高い伸びが見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、公式統計と民間の推計との乖離は拡大を見せつつある。
 8月の卸売物価指数は、前年同月比15.1%、前月比0.9%の上昇となり、主に国内財の工業製品における価格上昇幅が縮小したことや輸入財の価格が下落に転じたことを受けて、前年同月比の伸びは縮小したものの、引き続き15%を超えた。
 REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.6ポイント上昇の前年比13.2%と予測されている。


(イ)雇用・賃金等


 2010年第2四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比0.9ポイント減、前期比0.4ポイント減の7.9%となり、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比0.7ポイント減、前期比0.7ポイント増の9.9%となった。
 7月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比23.78%増、前月比2.88%増と、引き続き上昇幅が拡大した。民間部門において高い伸びが見られ、民間正規雇用部門においては、前月比の伸びが3%を超えた。
 REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より1.01ポイント上昇の前年比23.90%増、10年の失業率は同0.1ポイント下落の8.1%と予測されている。

 

(5)金融


(ア)株価指数であるMerval指数は、2,400ポイントを挟んで横ばいで推移し、米中古住宅販売戸数の急減等を受けて、世界景気の回復ペースに対する懸念の高まりから、2,300ポイントを下回る場面も見られたものの、31日には前月末比57ポイント下落の2,337ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、600ポイント台後半で横ばいで推移した後、世界景気の回復ペースに対する懸念の高まりから、月末にかけて上昇し、31日には前月末比53ポイント上昇の760ポイントとなった。


(イ)為替レートは、中銀による積極的なドル買い介入等を受けて、安定して推移し、31日には前月末比1センターボ(0.3%)ペソ安の1ドル=3.95ペソとなった。コールレートは、9.3%台で安定して推移した後、月末にわずかに下落し、31日には前月末比0.06ポイント下落の9.25%となった。民間金融機関預金残高は、31日において、前年同月末比24.7%増、前月末比2.5%増の2,282億ペソとなった。対民間貸出残高は、31日、前年同月末比24.8%増と、引き続き伸び率が上昇した。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前月比24.2%増と、引き続き上昇幅が拡大した。外貨準備高は、月初に外貨建て債務の支払に外貨準備が用いられたことから減少したものの、引き続き、中銀が外貨の流入に対しドル買い介入を行ったことから、増加に転じ、31日には前月末比8億ドル減の503億ドルとなった。
 REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.05ペソ高の1ドル=4.05ペソ、外貨準備高は同1億ドル減の515億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(ア)財政収支


 7月の財政収支(経済省発表)は、歳入が税収の好調等を受けて前年同月比45.8%増となり、一次歳出が同35.5%増となった結果、一次財政黒字は同410.6%増の39億ペソとなった。他方、総合収支は、27億ペソの黒字となった。なお、歳入には、中銀利益約30億ペソが含まれているものと見られている。
 REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より21億ペソ増の194億ペソと予測されている。


(イ)税収


 8月の税収(経済省発表)は、前年同月比36.7%増の346億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同37.2%増の10,312百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収が同29.1%増の6,026百万ペソ、輸出税収が同68.0%増の3,796百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同24.2%増の4,458百万ペソとなった。なお、付加価値税収のうち、国内分については同26.1%増、税関分については同55.9%増となった。
 REMの平均では、10年の税収は前月の予測より94億ペソ増の3,994億ペソと予測されている。

 

(7)貿易


 7月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比22%増の6,004百万ドル、輸入が同43%増の5,121百万ドルとなった結果、貿易黒字は同34%減の883百万ドルとなった。輸出については、同15%減となった燃料を除き、全般的な増加が見られ、特に一次産品については同83%増となった。大豆等油糧種子、トウモロコシ等穀物、自動車、貴金属、大豆油等食用油等が増加した一方、牛肉、銅鉱石等が減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、乗用車が同98%増となったほか、資本財及び消費財を除く分野において軒並み同40%台の増加が見られた。鉄鉱石、エチレン、無線受信機、電話用回路、ノートパソコン、商用車、乗用車、ディーゼル燃料等が増加した。
 REMの平均では、10年の輸出は前月の予測と同じ663億ドル、輸入は前月の予測より5億ドル増の526億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比19%減の137億ドルとなる)。

 

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