経済情報
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2010年11月アルゼンチンの経済情勢

 

 

2010年12月作成
在アルゼンチン大使館

1 概要


(1)フェルナンデス大統領は、パリクラブとの交渉を開始する旨発表した。また、政府は、全国レベルの消費者物価指数を作成するため、IMFに対して技術支援を要請した旨発表した。他方、2011年予算法案は、買収疑惑問題等により審議が停滞した結果、未成立のまま、通常国会が会期末を迎えた。


(2)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、一次産品価格の上昇、為替の安定等により、上昇を続け、過去最高値を更新したが、その後は、欧州における財政不安等から軟調に推移した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、500ポイント台前半で推移した後、パリクラブとの交渉開始の発表や、消費者物価指数に係るIMFに対する技術支援の要請の発表があったにもかかわらず、欧州における財政不安等により上昇基調で推移した。
外貨準備高は、中銀が外貨の流入に対し引き続きドル買い介入を行った結果、増加を続け、過去最高水準を更新した。


(3)10月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは10年の成長率は7.9%、11年は5.6%と予測されている。
 政府発表では、11月の消費者物価の伸びは前年同月比11.0%となり、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
 10月の財政収支は、税収の好調等を受けて、黒字幅は前年同月比335.2%増となった。また、総合収支は、8億ペソの黒字と、再び黒字となった。


(4)10月の貿易は、輸出が前年同月比22%増、輸入が同35%増となった結果、貿易黒字は同19%減となった。

 

2 経済の主な動き


(1)経済全般


 7日、ドミンゲス農牧相は、コルドバにて、国の穀物取引所代表者と会合を行った。同会合の後、同相は10/11期の収穫は1億300万トンに上り、歴史的な数字を記録するだろうと述べた。同相は、小麦については、収穫高は1,300〜1,400万トンに上り、最低550万トンが輸出可能、トウモロコシについては、収穫高は2,600万トン、1,850万トンが輸出可能であろうと述べた。
 23日、ブドゥー経済相は、全国レベルの消費者物価指数を作成するため、IMFに対して技術支援を要請した旨発表した。同相は、「IMFが専門知識を持つ特定の観点、つまり統計の作成という観点において、我々は技術支援を要請している」と述べた。また、エドウィン国家統計局(INDEC)総裁は、「12月の前半に、我々は、IMFの専門家を受け入れ始めるだろう」と述べた。
 25日、フェルナンデス大統領は、2つの発電所の建設について発表した。
 25日、ブドゥー経済相は、亜国家統計局改革に伴い創設された学術審議会(CAES)のメンバーと会談した。同会談においては、学術審議会側から、INDECに批判的な報告書が提出された。これに対し、ブドゥー経済相は、「日程の問題」により報告書の受け取りが遅れたことを弁明するとともに、全国レベルの消費者物価指数を作成するためのIMFとの作業について報告した。
 25日、下院本会議において、国家統計局改革法案が審議され、上院可決案に修正が加えられた上で、賛成多数で可決され、上院に送付された(憲法第81条によれば、先議院で可決された法案が後議院で修正された場合、先議院は同法案を再審議し、先議院可決案又は後議院可決案のいずれかを再可決するとされている)。

 

(2)物価・賃金


 11日、ブエノスアイレス市議会において、市内のタクシー料金に20%の深夜料金を導入する法案が可決された。同料金の導入は来年2月の見込みとされる。
 18日、フェルナンデス大統領は、モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長と非公式の会談を行い、来年の労使交渉について、法規に則って責任ある行動を取り、交渉を穏和に遂行するよう要求した。
 18日、フェルナンデス大統領は、石油業界の労使交渉の円滑化を目的とする「社会対話促進のための国家合意」の署名式を開催した。同合意は、石油業界の労使交渉について、交渉が法規に則り平和裡に展開されるよう、中央政府と地方政府の監督下で、労使の対話を維持することを目的としており、中央政府代表、地方政府代表、企業代表及び労組代表が署名を行った。
 24日、フェルンナンデス大統領は、本年12月の年金支給において、月額1,500ペソ以下の受給者全員を対象に、500ペソの特別支給を上乗せする旨発表した。

 

(3)金融・財政


 2日、造幣局は、同局の印刷能力が通貨需要の増加に追いついていないことから、伯造幣局との間で、100ペソ札の造幣を委託することで合意した。
 3日、下院予算委員会において、2011年予算法案が審議され、野党による意見書が2つに割れたことから、与党による意見書が多数派として採択され、野党による2つの意見書は少数派として採択された。
 10日、下院本会議において、2011年予算法案が審議されたところ、本法案を予算委員会に差し戻す動議が、賛成票117、反対票112により可決された。また、同本会議において、カリオ市民連合代表は、与党側が、本法案を可決させるため、一部の野党議員を買収しようとした旨主張し、その他2名の野党議員が、実際に与党側から電話を受け、賛成票を投じるよう要求されたと述べた。
 15日、フェルナンデス大統領は、IMFの関与なしで亜国との交渉を行うことをパリクラブ債権国が受け入れたとして、パリクラブとの交渉を開始する旨発表した。同大統領は、公共放送を通じて、前の週の火曜日(9日)に、パリクラブ側がIMFの関与なしで交渉する意思を表明したとされる書簡を受け取ったとして、「来年、我々は完全にデフォルトから脱却するだろう」と述べた。また、大統領は、「亜国にとって現実的な交渉を行うだろう」とし、「(返済は)社会的包摂を伴った経済成長を継続させることを可能にする返済期間によるものであり、それが亜国が債務を返済できる唯一の方法である」と述べた。
 16日、ブドゥー経済相は、パリクラブとの交渉に関し、ラジオ番組において、「我々は、交渉において1年での返済を受け入れることはないだろう。交渉においては、履行可能な、そして亜国の持続的成長を可能とする提案を作成することに焦点が当てられるだろう」と述べた。
 17日、与党は、下院本会議において、2011年予算法案の審議を試みたが、定足数不足により休会となった。他方、同日、下院憲法委員会において、買収疑惑問題について審議が行われ、2名の野党議員が、与党側から買収の申し出があった旨証言を行った。また、同委員会において、委員長を務めるカマニョ下院議員(ペロン党反キルチネル派)が、クンケル下院議員(ペロン党キルチネル派)を殴打し、強く批判された。
 19日、ランダッソ内相は、フェルナンデス政権が、2011年予算法案の審議のため、通常国会の会期終了後、特別国会を召集することはない旨述べた。
 24日、野党は、下院本会議において、2011年予算法案を下院予算委員会において審議することを承認する決議案の可決を試みたが、可決に必要な賛成票は得られなかった(下院規則第106条によれば、委員会が議案を審議できるのは11月20日までとされており、同日以降に委員会での審議を行うためには、同審議を承認する決議案が、本会議において、出席議員の3分の2以上の賛成により可決されなければならないとされている)。こうして、同法案が未成立のまま、通常国会は会期末を迎えたため、会計年度の開始時(1月)に予算が承認されていない見込みであることから、政府は、06年国家予算執行管理法に基づき、来年の年初にも、2010年予算に必要な修正を施した上で、同予算を2011年においても有効なものとする政令を公布するものと見られている。
 24日、フェルナンデス大統領は、本年度予算を約303億ペソ(当初予算の約18%)増額補正する緊急大統領令に署名した。予算の割当先としては、国家社会保障機構(ANSES)に約101億ペソ、公共事業省に約54億ペソなどとなっており、具体的な支出先としては、本年7月に発表された年金増額への対応等年金関連支出、道路整備を中心とした公共事業、公共交通機関やエネルギー部門への補助金、賃上げを受けた人件費の増等とされている。

 

(4)対外関係


 3日、リオネグロ州政府は、黒竜江省北大荒農墾集団総公司(中国国営企業)との間で、ネグロ川中下流の谷(灌漑済み20〜25万haを含む)及びコロラド川の沿岸において、食料農業プロジェクトを実施する合意文書に署名した。プロジェクトの最初の期間は、プロジェクトに含まれる計画、投資、工事等を機能させるための調査に充てられる。サイス同州知事は、このプロジェクトの実施期間が20年を下回ることは恐らくないと強調した。
 10〜12日、フェルナンデス大統領は、韓国を訪問し、G20サミットに出席した。同訪問にはティメルマン外相、ブドゥー経済相等が同行した。大統領は、演説において、「現在、亜国は、目覚ましい経済成長を遂げているとともに、貿易額も大幅に増加し、国際的に開かれた市場となっている」、「他国に端を発する経済危機の影響を回避するためのセーフティーネットとなり得るものは内需である。こうした観点に基づき、近年の亜政府は、内需刺激策の重要性を主張し、雇用の創出、賃金の上昇、中小企業支援、インフラ投資等の政策を通じて、内需の冷え込みを回避し、これによって経済成長を遂げてきた」などと述べた。
 12日、ドミンゲス農牧相は、訪亜中の韓長賦・中国農業部長と会談し、二国間関係の強化、及び協力・貿易・投資を主要なアジェンダとする農業合同委員会の設立について合意した。ドミンゲス農牧相は、「中国は、世界の主要食料供給国である亜にとって、戦略的パートナーである。我々は、アグロインダストリーの分野において、中国との関係を強化することとした」と述べた。韓部長は、「農業合同委員会は、二国間協力にとって重要であり、世界の農業に貢献することができるだろう」と述べた。
 15日、ティメルマン外相は、訪亜中の韓長賦・中国農業部長と会談し、亜の対中国輸出の多様化及び戦略的分野への共同投資について協議した。
 18日、訪米中のブドゥー経済相及びティメルマン外相は、リプスキーIMF筆頭副専務理事、エイサギーレ同西半球局長らと会談した。同会談においては、亜国の統計問題等について話し合いが行われたものと見られている。
 29日、訪中中のドミンゲス農牧相は、韓長賦・中国農業部長と会談し、亜産牛肉の対中輸出の再開、亜産大麦の対中輸出及び乳製品の亜中間貿易等について合意に至った。

 

3 経済指標の動向


(1)経済活動全般


 9月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比7.8%増、前月比0.2%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなったものの、本年第2四半期と比べると、その伸び幅は縮小した。
 11月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、10年の実質GDP成長率は前月の予測より0.1ポイント上昇の7.9%、11年は同0.1ポイント上昇の5.6%と予測されている。

 

(2)消費


(ア)小売


 10月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比13.9%増、前月比0.4%増と、引き続き好調であったものの、その伸び幅は縮小し、2009年12月以来10ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが20%を下回った。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比16.8%増、前月比0.2%減となり、11ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。


(イ)自動車販売


 11月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比67.7%増、前月比15.0%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(3)工業生産・建設活動


(ア)工業生産


 10月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比8.2%増、前月比0.4%減と、引き続き好調であった。分野別では、自動車、ゴム・プラスチック及び金属機械において大幅な伸びが見られたほか、基礎金属等も好調だった。なお、亜工業連盟(UIA)によると、10月の工業生産は、前年同月比10.9%増、前月比0.5%増となった。
 10月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比3.5ポイント上昇、前月比3.1ポイント下落の79.2%と、引き続き高い水準となった。食品、繊維及び化学を除く全分野で下落が見られた。
 REMの平均では、10年の工業生産指数の上昇率は前月の予測と同じ前年比8.7%増と予測されている。


(イ)建設活動


 10月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比12.5%増、前月比2.5%増となり、5ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが2桁台となった。


(ウ)自動車生産


 11月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比36.0%増、前月比13.8%増と、前年に比べ、引き続き大幅に増加した。

 

(4)物価・雇用


(ア)物価


 11月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比11.0%、前月比0.7%の上昇となり、引き続き高い水準となった。飲食料が前月比0.9%の上昇と上昇幅が縮小したのに対し、衣類及び家具・家庭用品において同1.0%を超える上昇が見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
 11月の卸売物価指数は、前年同月比14.9%、前月比0.9%の上昇となり、7ヶ月ぶりに前年同月比の伸びが15%を下回ったものの、引き続き高い水準となった。
 REMの平均では、10年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比13.1%と予測されている。


(イ)雇用・賃金等


 2010年第3四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比1.6ポイント減、前期比0.4ポイント減の7.5%となり、また、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比1.8ポイント減、前期比1.1ポイント減の8.8%となった結果、1992年10月以来の低水準となった。
 10月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比25.88%増、前月比1.93%増と、引き続き上昇幅が拡大した。公共部門において前月比3.26%増となったほか、民間正規部門においても前月比2.18%増となった。
 REMの平均では、10年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.42ポイント上昇の前年比26.18%増、10年の失業率は前月の予測と同じ7.8%と予測されている。

 

(5)金融


(ア)株価指数であるMerval指数は、海外主要株式市場における上昇、一次産品価格の上昇、為替の安定等により、上昇を続け、5日には、過去最高値となる3,352ポイントとなった。しかし、その後は、欧州における財政不安等から軟調に推移し、30日には、前月末比254ポイント上昇の3,261ポイントとなった。
 また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、500ポイント台前半で推移した後、パリクラブとの交渉開始の発表や、消費者物価指数に係るIMFに対する技術支援の要請の発表があったにもかかわらず、欧州における財政不安等により上昇基調で推移し、30日には前月末比51ポイント上昇の568ポイントとなった。


(イ)為替レートは、中銀による積極的なドル買い介入等により、引き続き安定して推移しつつも、緩やかにペソ安となり、30日には前月末比2.7センターボ(0.7%)ペソ安の1ドル=3.98ペソとなった。コールレートは、9.3%台で安定して推移し、30日には前月末と同じ9.38%となった。民間金融機関預金残高は、30日において、前年同月末比27.9%増、前月末比2.2%増の2,441億ペソとなり、3ヶ月連続で前年同月末比の伸びが25%を超えた。対民間貸出残高は、30日、前年同月末比35.2%増と、引き続き伸び率が上昇し、2008年6月以来29ヶ月ぶりに35%を超えた。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前年同月比28.8%増と、引き続き高い伸びとなった。外貨準備高は、中銀が外貨の流入に対し引き続きドル買い介入を行ったことから、増加を続け、19日には524億ドルと過去最高水準を更新したものの、月末にかけて減少し、30日には前月末とほぼ同じ519億ドルとなった。
 REMの平均では、10年の為替レートは前月の予測より0.01ペソ高の1ドル=4.01ペソ、外貨準備高は同1億ドル増の525億ドルと予測されている。

 

(6)財政


(ア)財政収支


 10月の財政収支(経済省発表)は、歳入が税収の好調等を受けて前年同月比52.7%増となり、一次歳出が同44.9%増となった結果、一次財政黒字は同335.2%増の31億ペソとなった。総合収支は、8億ペソの黒字と、再び黒字となった。一次歳出の伸び幅が拡大してきており、歳入に含まれているとされる中銀利益約30億ペソを除いた場合、一次財政黒字はほとんどなかったものと見られている。
 REMの平均では、10年の一次財政黒字は前月の予測より2億ペソ減の225億ペソと予測されている。


(イ)税収


 11月の税収(経済省発表)は、前年同月比39.5%増の364億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同43.2%増の10,635百万ペソ(うち、国内分については同30.8%増、税関分については同59.7%増)、法人及び個人に係る所得税収が同28.3%増の6,393百万ペソ、輸出税収が同51.2%増の4,030百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同54.2%増の4,959百万ペソとなった。
 REMの平均では、10年の税収は前月の予測より13億ペソ増の4,042億ペソと予測されている。

 

(7)貿易


 10月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比22%増の5,884百万ドル、輸入が同35%増の4,953百万ドルとなった結果、貿易黒字は同19%減の931百万ドルとなった。輸出については、燃料を除く全分野において増加が見られ、特に一次産品については同71%増となった。大豆油等食用油、大豆粕等食品工業くず、大豆等油糧種子、自動車、貴金属、バイオディーゼル、トウモロコシ等穀物等が増加した一方、原油、食肉等が減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、乗用車が同69%増となったほか、軒並み25〜45%程度の増加が見られた。化学肥料、鉄鉱石、鋼材、無線受信機用部品、電子回路、電話機器部品、発電機、ボイラー、コンバイン、乗用車、医薬品、軽油等が増加した。
 REMの平均では、10年の輸出は前月の予測より3億ドル減の681億ドル、輸入は同1億ドル減の544億ドルと予測されている(この場合、10年の貿易黒字は前年比19%減の137億ドルとなる)。

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