1 概要
(1)フェルナンデス大統領が次期大統領選挙への出馬を表明し、ブドゥー経済相を副大統領候補とする旨発表した。
(2)2011年第1四半期の実質GDPは、前年同期比9.9%増、前期比2.8%増と、8期連続で前期比の伸びがプラスとなったほか、前年同期比も引き続き高い伸びを記録した。
(3)株価指数であるMerval指数は、月後半にかけて、海外主要株式市場における上昇や欧州の債務問題に対する懸念の緩和等を受けて上昇した。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、欧州の債務問題等を材料に600ポイントを超える場面も見られたものの、月末にかけて下落した。
(4)5月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは11年の成長率は6.8%、12年は4.9%と予測されている。
政府発表では、6月の消費者物価の伸びは前年同月比9.7%の上昇と、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
5月の財政収支は、前年同月比4.1%増の黒字となり、また、総合収支は、19億ペソの黒字と、3ヶ月ぶりに黒字に転じた。
(5)5月の貿易は、輸出が前年同月比24%増、輸入が同39%増となった結果、貿易黒字は同13%減となった。
2 経済の主な動き
(1)経済全般
15日、フェルナンデス大統領は、本年の経済成長率は7.5〜8%程度になるとの見通しを示した。
21日、フェルナンデス大統領は、大統領府において演説を行い、次期大統領選挙への出馬を表明した。
25日、フェルナンデス大統領は、大統領府において演説を行い、ブドゥー経済相を副大統領候補とする旨発表した。大統領は、ブドゥー経済相を指名した理由として、忠誠心や民間年金基金(AFJP)の国営化を挙げた。
(2)物価・賃金
1日、政府は、補助金制度の対象となる軽油供給枠を18.5%削減すると発表した。
9日、食品労組と経営者側は、33.5%の賃上げ等で合意した。
15日、一部の野党議員らは、政府が民間コンサルタント会社に罰金を科していることにより、各社による独自の消費者物価指数の発表が困難になっているとして、民間コンサルタント会社8社による同指数の集計値を発表した。フェラーリ下院議員(ペロン党反キルチネル派)は、今後、政府がコンサルタント会社等に対する罰金を取り下げるか、新たな国家統計局法が成立するまでは、下院表現の自由委員会を通じて、消費者物価指数の上昇率を毎月公表する予定であると述べた。
23日、商業労組と経営者側は、30%の賃上げで合意した。
28日、サンタクルス州教職員労組は、内部会合を開催し、8月頃まで一時的にストライキを停止し、30日より学校の授業を再開する旨決定した。
(3)金融・財政
1日、上院本会議において、マネーロンダリング対策法案が審議・可決され、成立した。同法は、21日付官報掲載を以て公布されたが、同官報掲載にあたり、金融情報機構(UIF)の活動を規制する一部の条項(同法第25条)に対し拒否権が発動された(同条はUIFの活動に公正性が欠如していると主張する野党により盛り込まれた条項)。
16日、ブドゥー経済相は、「パリクラブとは、年末までに合意に至るだろう」と発言した。
(4)対外関係
3日、カルステンス墨中銀総裁が訪亜し、それぞれ、ブドゥー経済相及びマルコ・デル・ポント中央銀行総裁と会談した。
29日、上院本会議において、南米銀行の設立に係る協定を承認するための法案が審議・可決され、下院に送付された。
3 経済指標の動向
(1)経済活動全般
2011年第1四半期の実質GDP(INDEC発表)は、前年同期比9.9%増、前期比2.8%増と、8期連続で前期比の伸びがプラスとなったほか、前年同期比も引き続き高い伸びを記録した。民間消費が引き続き高い伸び率で成長し、高成長に大きく寄与した。また、設備投資や建設の大幅な伸びを受けて、固定資本形成が前年同期比19.5%増となったほか、政府消費も引き続き高い伸びを記録した。輸出は伸び幅が縮小した一方で、輸入については同20.4%増と、輸出の伸びを大きく上回った。GDPデフレーターは同17.2%増、民間消費デフレーターは同15.2%増となり、前期とほぼ同水準となった。
4月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比7.1%増、前月比0.7%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなったが、その伸び幅は鈍化した。
6月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、11年の実質GDP成長率は前月の予測より0.2ポイント上昇の7.0%、12年は同0.1ポイント上昇の5.0%と予測されている。
(2)消費
(ア)小売
5月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比10.3%増、前月比0.8%減となり、引き続き好調だったものの、前年同月比の伸び幅は縮小した。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比14.0%増、前月比1.0%増となり、18ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(イ)自動車販売
6月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比20.9%増、前月比3.0%減と、前年に比べ、引き続き大きく増加したものの、その伸び幅は鈍化した。
(3)工業生産・建設活動
(ア)工業生産
5月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比9.0%増、前月比1.0%増と、引き続き好調であった。分野別では、自動車において大幅な伸びが見られたほか、金属機械、プラスチック、基礎金属等も好調だった。
5月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比1.6ポイント上昇、前月比2.6ポイント下落の78.3%となった。分野別では、飲食料品、化学、基礎金属等において下落した一方で、自動車、繊維、金属機械等においては上昇が見られた。
REMの平均では、11年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント上昇の前年比7.5%増と予測されている。
(イ)建設活動
5月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比14.0%増、前月比2.7%増となり、2ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(ウ)自動車生産
6月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比23.8%増、前月比1.5%増と、前年に比べ、引き続き大きく増加し、単月の生産台数も過去最高を更新した。
(4)物価・雇用
(ア)物価
6月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%、前月比0.7%の上昇と、引き続き高い水準となった。飲食料が前月比0.6%の上昇と伸び幅が拡大したほか、教育及び設備修繕・維持において、それぞれ同1.7%、同1.5%の上昇と、高い伸びが見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、一部の野党議員らは、民間コンサルタント会社8社による推計の集計値として、6月の消費者物価は、前年同月比23.6%、前月比1.5%の上昇となったと発表した。
6月の卸売物価指数は、前年同月比12.3%、前月比0.9%の上昇となり、前年同月比の伸びは鈍化してきているものの、引き続き高い水準となった。
REMの平均では、11年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.2ポイント下落の前年比13.8%と予測されている。
(イ)雇用・賃金等
5月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比27.68%増、前月比2.95%増と、前年同月比の伸び幅が拡大し、引き続き高い水準となった。民間正規部門及び民間非正規部門において大きな上昇が見られ、特に、民間正規部門においては前月比4.04%増となった。
REMの平均では、11年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.12ポイント下落の前年比25.83%増、11年の失業率は同0.1ポイント下落の7.3%と予測されている。
(5)金融
(ア)株価指数であるMerval指数は、月後半にかけて、海外主要株式市場における上昇や欧州の債務問題に対する懸念の緩和等を受けて上昇し、30日には、前月末比110ポイント下落の3,361ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、欧州の債務問題等を材料に600ポイントを超える場面も見られたものの、月末にかけて下落し、30日には前月末比7ポイント上昇の583ポイントとなった。
(イ)為替レートは、中銀による介入等により、引き続き安定して推移しつつ、緩やかにペソ安となり、30日には前月末比2.2センターボ(0.5%)ペソ安の1ドル=4.11ペソとなった。他方、ペソ安が進んでいた非正規為替市場においてはペソ高となり、正規レートとの乖離が縮小した。その背景として、国家社会保障機構(ANSES)によるドル売り等が指摘されている。
コールレートは、月初に下落した後、9.6%台で横ばいで推移し、30日には前月末比0.06ポイント下落の9.63%となった。民間金融機関預金残高は、30日において、前年同月末比35.7%増、前月末比3.9%増の2,969億ペソとなり、6ヶ月連続で前年同月末比の伸びが30%を超えた。対民間貸出残高は、30日、前年同月末比47.3%増と、引き続き高い伸び率となり、6ヶ月連続で40%を超えた。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前年同月比37.6%増と、2004年以来の高い伸び率を続けている。
外貨準備高は、ほぼ横ばいで推移した後、月末にわずかに減少し、30日には前月末比4億ドル減の517億ドルとなった。
REMの平均では、11年の為替レートは前月の予測と同じ1ドル=4.28ペソ、11年の外貨準備高は同8億ドル減の515億ドルと予測されている。
(6)財政
(ア)財政収支
5月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比33.2%増、一次歳出が同36.0%増となった結果、一次財政黒字は同4.1%増の31億ペソとなった。また、総合収支は、19億ペソの黒字と、3ヶ月ぶりに黒字に転じた。
REMの平均では、11年の一次財政黒字は前月の予測より5億ペソ減の146億ペソと予測されている。
(イ)税収
6月の税収(経済省発表)は、前年同月比30.5%増の487億ペソとなり、引き続き大幅に増加した。付加価値税収が同23.5%増の12,272百万ペソ(うち、国内分については同23.7%増、税関分については同23.5%増)、法人及び個人に係る所得税収が同45.7%増の13,358百万ペソ、輸出税収が同21.7%増の5,141百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同41.4%増の5,845百万ペソとなった。
REMの平均では、11年の税収は前月の予測より39億ペソ増の5,255億ペソと予測されている。
(ウ)債務残高
2011年第1四半期末の債務残高(経済省発表)は、前期末比88億ドル増の1,731億ドル、GDP比では同1.0ポイント増の46.3%となった。債務削減基金の設置等に伴い中銀を引き受け先とした債券が発行されたこと等により、債務残高が増加した。なお、債権者の内訳は、亜国の公的機関49.9%、民間部門36.1%、国際機関等10.2%等となっている。
(7)貿易
5月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比24%増の8,043百万ドル、輸入が同39%増の6,363百万ドルとなった結果、貿易黒字は同13%減の1,680百万ドルとなった。輸出については、燃料を除く全分野において増加が見られた。トウモロコシ等穀物、大豆油等食用油、大豆油粕、商用車、乗用車、バイオディーゼル等化学製品、貴金属等が増加した一方、原油、大豆等は減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、特に燃料については同61%増となったほか、乗用車も同50%増加した。リン酸塩、鉄鉱石、医薬品、液化天然ガス、軽油、ノートパソコン、シャーシ、電子回路、自動車用ギアボックス、乗用車、二輪車等が増加した。
REMの平均では、11年の輸出は前月の予測より6億ドル増の798億ドル、輸入は同4億ドル増の699億ドルと予測されている(この場合、11年の貿易黒字は前年比15%減の99億ドルとなる)。
(8)国際収支
2011年第1四半期の国際収支(INDEC発表)は、貿易収支が前年同期比163百万ドル増の2,460百万ドルの黒字、所得収支が同103百万ドル増の2,475百万ドルの赤字等となった結果、経常収支は673百万ドルの赤字と、2四半期連続の赤字となった。また、資本収支は、同120百万ドル増の137百万ドルの赤字と、2四半期連続の赤字となったものの、前年同期と比べると、その赤字幅は減少した。
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