1 概要
(1)伯政府が自動車を非自動輸入許可の対象品目とすることを決定した旨報じられたことに関し、政府は、伯政府に抗議文書を送付したほか、両国の次官レベルで交渉が行われた。
(2)株価指数であるMerval指数は、3,300ポイント台で横ばいで推移した後、月下旬に、非正規為替市場においてペソ安が大きく進んだこと等を嫌気し、銀行株等を中心に値を下げた。また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、500ポイント台後半で横ばいで推移した。
(3)4月の消費及び生産は、引き続き好調であった。市場見通しでは11年の成長率は6.8%、12年は4.9%と予測されている。
政府発表では、5月の消費者物価の伸びは前年同月比9.7%の上昇と、引き続き高い水準となった。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られている。
4月の財政収支は、前年同月比4.7%増の黒字となった一方、総合収支は、2ヶ月連続で赤字となった。
(4)4月の貿易は、輸出が前年同月比12%増、輸入が同38%増となった結果、貿易黒字は同38%減となった。
2 経済の主な動き
(1)経済全般
2日、フェルナンデス大統領は、ブドゥー経済相及びトマダ労働相とともに、モジャーノ労働総同盟(CGT)書記長を始めとするCGT幹部ら計35名と会談した。同会談において、フェルナンデス大統領は、フェルナンデス政権の政策モデルを尊重して労使交渉を円滑化するようCGTに要求した。一方、CGT側は、企業利益分配法案の成立等を要求した。
2日、国家証券取引委員会(CNV)は、シデラル社の配当に関する株主総会の議決の有効性が株式の取引に影響を与えるなどとして、同社の株式の取引を一時的に停止した。
3〜4日、経済省幹部は、国家統計局(INDEC)学術審議会が作成した同局に関する報告書について話し合うため、同審議会のメンバーと会議を行った。
4日、議会両院常設委員会において、国家社会保障機構(ANSES)による議決権行使に係る制限を撤廃する緊急大統領令(DNU)が審議され、同DNUを有効とする与党の意見書が多数派として採択され、同DNUを無効とする野党の意見書が少数派として採択された。
6日、国家証券取引委員会は、シデラル社の株式の取引停止を解除した。
10日、YPF社は、ネウケン州において、1.5億石油換算バレルのオイルシェール層を発見した旨発表した。
12〜26日、国際基準の遵守状況に関する報告書(ROSC)に係る世銀ミッションが訪亜し、経済省、中銀、国家証券取引委員会等と協議を行った。
(2)物価・賃金
9日、建設労組と経営者側は、24%(非報酬性の一時金も勘案した場合27%)の賃上げで合意した。
11日、サンタクルス州政府は、同州教職員労組が、4月12日より賃上げを要求してストライキを開始し、同月25日より同州内の複数の石油採掘施設の出入口を封鎖するデモを行うなど、ストライキが長期化していることを受け、同ストライキにより授業が中断されている学校に代理の教職員を派遣して授業を再開する旨の政令を公布した。これに対し、ストライキを実施している教職員側は、ストライキ権を侵害する措置であり違憲であるとして強く批判した。
15日、サンタクルス州教職員労組は、会合を開催し、今後ともストライキを継続する旨決定したのに対し、ペラルタ同州知事は、賃上げ要求には応じられないとの意向を示した。
19日、金属労組と経営者側は、26.5%(非報酬性の一時金も勘案した場合32%)の賃上げで合意した。
23日、サンタクルス州裁判所は、同州教員労組による石油採掘施設の出入口の封鎖を解除させるよう国境警備隊に命じた。これを受け、国境警備隊が派遣されたが、同封鎖は解除されなかった。
24日、銀行労組と経営者側は、29%の賃上げで合意した。
(3)金融・財政
4日、下院本会議において、マネーロンダリング対策法案(刑法を改正してマネーロンダリングの取り締まりを強化)が審議・可決され、上院に送付された。
5日、中銀理事会は2010年決算を承認し、昨年の中銀利益は前年比62%減の89億ペソとなった。
(4)対外関係
12日、フェルナンデス大統領は、約60名の中国企業関係者を率いて訪亜中の陳徳銘中国商務部部長と会談した。また、陳徳銘部長は、ティメルマン外相及びドミンゲス農牧相と共に記者会見を行い、「亜は、中国にとって重要なパートナーである。中国は亜産大豆油を購入し続ける。中国の対亜投資総額は既に140億ドルを超えているが、今次訪問の機に行われる各種商談により、更に増加するだろう」などと述べた。一方、ティメルマン外相は、「今般、中国は、50万トンの大豆油購入契約に署名した。亜は、中国の新たな5ヶ年計画において、貿易・投資先としての優先順位の高い中南米の2ヶ国のうちの1ヶ国とされている」などと述べた。
13日、ジョルジ産業相は、伯政府が自動車を非自動輸入許可の対象品目とすることを決定した旨報じられたことに関し、ピメンテウ伯開発商工相に対し、抗議文書を送付した。同抗議文書においては、食品等に関する伯側による輸入障壁等についても言及がなされている。
17日、ジョルジ産業相は、コルデイロ在亜伯大使と会談し、通商摩擦の悪化を防ぐため、23〜24日、両国の次官レベルで交渉を行うことで合意した。
21〜24日、ティメルマン外相は、デビード公共事業相、ドミンゲス農牧相及びクレックレル外務副大臣(通商・国際経済担当)と共にロシアを訪問した。ティメルマン外相は、ラヴロフ・ロシア外相との会談後、同外相とともに農牧畜、投資、原子力平和利用及び地理・鉱山調査の各分野における二国間協力覚書等署名式に出席した。今次訪問では、2015年までに二国間貿易を現行の10億ドルから50億ドルに増加させる目標、及びロシアによる亜の多様な分野(ハイテク、造船、石油、バイオテクノロジー、原子力、風力、運輸、鉱業、農産加工業等)における総額180億ドルに上る各種投資プロジェクトを推進していく両国の意志が確認された。また、亜は、ロシアのWTO加盟に対する支持を改めて表明した上で、今般、ロシアを市場経済国と認定した。
23〜24日、ビアンチ産業省商工長官は、亜伯通商問題に関し、テイセイラ伯開発商工長官と協議を行った。両者は、両国産業の統合・発展を促進するためのアクションを強化すること、それぞれの国にとってセンシティブで戦略的な分野について特別の注意を払いつつ、構造的課題に係る作業アジェンダを作成すること等で合意した。
3 経済指標の動向
(1)経済活動全般
3月の経済活動指数(INDEC発表)は前年同月比7.8%増、前月比0.5%増と、引き続き前年同月比の伸びが大幅にプラスとなった。
5月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、11年の実質GDP成長率は前月の予測より0.2ポイント上昇の6.8%、12年は同0.1ポイント下落の4.9%と予測されている。
(2)消費
(ア)小売
4月のショッピングセンター売上高(INDEC発表)は、前年同月比16.3%増、前月比0.9%減となり、引き続き好調だったものの、前年同月比の伸び幅は縮小した。スーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比16.4%増、前月比0.9%減となり、17ヶ月連続で前年同月比の伸びが2桁台となった。
(イ)自動車販売
5月の自動車販売台数(自動車協会(ADEFA)発表)は、前年同月比41.8%増、前月比7.4%増と、前年に比べ、引き続き大きく増加し、単月の販売台数も引き続き過去最高を更新した。
(3)工業生産・建設活動
(ア)工業生産
4月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比8.0%増、前月比0.5%増と、引き続き好調であった。分野別では、自動車において大幅な伸びが見られたほか、金属機械、プラスチック等も好調だった。
4月の稼働率(INDEC発表)は、前年同月比1.4ポイント上昇、前月比4.8ポイント上昇の80.9%と、再び80%を上回った。分野別では、石油精製を除く全ての分野で上昇が見られ、特に基礎金属においては、90%を超える高い水準となった。
REMの平均では、11年の工業生産指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント上昇の前年比7.3%増と予測されている。
(イ)建設活動
4月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比9.8%増、前月比2.0%増と、引き続き好調であった。
(ウ)自動車生産
5月の自動車生産台数(自動車協会発表)は、前年同月比33.3%増、前月比9.9%増と、前年に比べ、引き続き大きく増加し、単月の生産台数も過去最高を更新した。
(4)物価・雇用
(ア)物価
5月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%、前月比0.7%の上昇と、引き続き高い水準となった。飲食料が前月比0.4%の上昇と伸び幅が縮小したのに対し、教育及び衣類において、それぞれ同3.2%、同1.5%の上昇と、高い伸びが見られた。他方、民間においては、公式統計は引き続き実態を下回っているものと見られており、一部の野党議員らは、民間コンサルタント会社8社による推計の集計値として、5月の消費者物価は、前年同月比23.5%、前月比1.5%の上昇となったと発表した。
5月の卸売物価指数は、前年同月比12.5%、前月比0.9%の上昇となり、前年同月比の伸びは鈍化してきているものの、引き続き高い水準となった。
REMの平均では、11年の消費者物価指数の上昇率は前月の予測より0.1ポイント下落の前年比14.0%と予測されている。
(イ)雇用・賃金等
2011年第1四半期の失業率(INDEC発表)は、前年同期比0.9ポイント減、前期比0.1ポイント増の7.4%となり、また、準失業率(非自発的に週35時間未満の労働にしか従事できない者)は、前年同期比1.0ポイント減、前期比0.2ポイント減の8.2%となり、引き続き改善が見られた。
4月の給与指数(INDEC発表)は、前年同月比26.49%増、前月比1.83%増となり、前年同月比の伸び幅が再び拡大に転じた。民間正規部門及び民間非正規部門において、前月比2%を超える大きな上昇が見られた。
REMの平均では、11年の給与指数の上昇率は前月の予測より0.03ポイント下落の前年比25.95%増、11年の失業率は同0.1ポイント下落の7.2%と予測されている。
(5)金融
(ア)株価指数であるMerval指数は、3,300ポイント台で横ばいで推移した後、月下旬に、非正規為替市場においてペソ安が大きく進んだこと等を嫌気し、銀行株等を中心に値を下げ、31日には、前月末比155ポイント下落の3,251ポイントとなった。
また、カントリーリスク指数であるEMBI+は、500ポイント台後半で横ばいで推移し、31日には前月末比21ポイント上昇の576ポイントとなった。
(イ)為替レートは、中銀による介入等により、引き続き安定して推移しつつ、緩やかにペソ安となり、31日には前月末比0.8センターボ(0.2%)ペソ安の1ドル=4.09ペソとなった。他方、非正規為替市場においては、大統領選が近づいていることや連邦歳入庁(AFIP)等による取締りの強化等を受けて、ペソ安が大きく進んだ。
コールレートは、9.6%台で横ばいで推移し、31日には前月末と同じ9.69%となった。民間金融機関預金残高は、31日において、前年同月末比35.7%増、前月末比1.7%増の2,858億ペソとなり、5ヶ月連続で前年同月末比の伸びが30%を超えた。対民間貸出残高は、31日、前年同月末比43.7%増と、引き続き高い伸び率となり、5ヶ月連続で40%を超えた。M2は、中銀のドル買い介入等により増加を続け、前年同月比37.9%増と、引き続き伸び率が上昇し、2004年以来の高い伸び率となった。
外貨準備高は、中銀によるドル買い介入が行われた一方、債務の支払に外貨準備が用いられたこと等から、ほぼ横ばいで推移し、31日には前月末比1億ドル増の521億ドルとなった。
REMの平均では、11年の為替レートは前月の予測より0.01ペソ安の1ドル=4.28ペソ、11年の外貨準備高は同2億ドル減の523億ドルと予測されている。
(6)財政
(ア)財政収支
4月の財政収支(経済省発表)は、歳入が前年同月比32.9%増、一次歳出が同34.8%増となった結果、一次財政黒字は同4.7%増の20億ペソとなった。他方、総合収支は、4億ペソの赤字と、2ヶ月連続で赤字となった。なお、歳入には中銀利益約8億ペソが含まれていると見られている。
REMの平均では、11年の一次財政黒字は前月の予測より7億ペソ増の151億ペソと予測されている。
(イ)税収
5月の税収(経済省発表)は、前年同月比28.7%増の506億ペソとなり、引き続き大幅に増加したものの、その伸び幅は鈍化した。付加価値税収が同45.7%増の13,042百万ペソ(うち、国内分については同47.7%増、税関分については同38.1%増)、法人及び個人に係る所得税収が同22.4%増の14,040百万ペソ、輸出税収が同9.2%増の4,667百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同40.5%増の5,705百万ペソとなった。
REMの平均では、11年の税収は前月の予測より16億ペソ増の5,216億ペソと予測されている。
(7)貿易
4月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比12%増の6,953百万ドル、輸入が同38%増の5,653百万ドルとなった結果、貿易黒字は同38%減の1,300百万ドルとなった。輸出については、燃料を除く全分野において増加が見られた。大豆油粕等食品工業くず、トウモロコシ等穀物、乗用車、商用車、バイオディーゼル等化学製品、アルミニウム等が増加した一方、大豆、原油等は減少した。輸入については、全分野において増加が見られ、特に燃料については同120%増となったほか、資本財や乗用車も同46%増加した。航空機、ノートパソコン、発電設備、軽油、燃料油、リン酸塩、石油パイプライン用パイプ、電子回路、自動車用ギアボックス、履物、医薬品、乗用車等が増加した。
REMの平均では、11年の輸出は前月の予測より1億ドル増の792億ドル、輸入は同4億ドル増の695億ドルと予測されている(この場合、11年の貿易黒字は前年比17%減の97億ドルとなる)。
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