2007年12月アルゼンチンの経済情勢
2008年1月作成
在アルゼンチン大使館
1.概要
(1)フェルナンデス大統領は、就任演説において、これまでの経済モデルを継続する意向を示した。エネルギー効率利用計画が発表され、夏時間が導入された。
7年振りに公共交通料金が引き上げられることが発表された。政府と酪農業界は、一部乳製品価格の維持等で合意した。
2008年予算法、緊急経済法・金融取引税等の延長法が成立した。中銀は2008年の金融政策プログラムを発表した。
(2)小麦の輸出登録手続きの停止措置が無期限延長された。南米銀行の設立に関する合意書が署名された。2008年輸出計画が発表された。
(3)11月の消費、生産ともに引き続き好調だった。市場見通しでは07年の成長率は8.4%、08年は6.8%と予測されている。
政府発表では、2007年の消費者物価の伸びは8.5%に留まったが、実際には20%程度上昇したと見られている。
(4)亜金融指標は概ね安定的に推移した。外貨準備高は引き続き増加した。
引き続き歳出の伸びが大きく、11月の財政収支は引き続き実質では前年を下回った。
11月の貿易は、輸出が前年比32%増、輸入が同35%増となり、貿易黒字は同21%増加した。
2.経済の主な動き
(1)経済全般
10日、フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は就任演説を行い、これまでの経済モデルを継続する意向を示した。大統領選挙中に述べていた合意は、価格と賃金の合意ではなく目標の合意であると述べた。
10日、既に発表されていたフェルナンデス・デ・キルチネル新政権の閣僚が正式に就任した。
11日、フェルナンデス大統領は、ストラスカーンIMF専務理事と会談した。同専務理事は、パリクラブ債務問題に関し、IMFはパリクラブのメンバーではなく、この問題のアクターでもないと述べた。
12日、ルストー経済相は、テレビ番組において、できるだけ高い率で成長を続けなければならない、エネルギー問題はない、(パリクラブとの合意は)重要だが、緊急のものではない、(インフレの)議論が過大になっていると述べた。
14日、経済省及び公共事業省の長官人事が官報掲載された。金融長官にはセコンディニ前ブエノスアイレス州立銀行理事、財務長官にはペソア前国家ガス監督機構臨時代表・元首相府国会担当長官、経済政策長官にはロッシ前ブエノスアイレス州立銀行総裁顧問、法制・官房長官にはペレイラ前ブエノスアイレス州立銀行理事、商工長官にはフラギオ前イベコ・アルヘンティナ(フィアット系トラックメーカー)社長、顧問室長にはペナ前ブエノスアイレス州立銀行総裁顧問が就任した。モレノ国内取引長官、ウルキサ農牧長官は留任した。また、公共事業省のカメロン・エネルギー長官、サラス通信長官、ロペス公共事業長官、ハイメ運輸長官、マジョラル鉱業長官は全て留任した。
21日、レプソル社は、キルチネル前大統領と関係が深いと言われる亜銀行家エスケナシ氏の率いるピーターセングループに、YPF株の14.9%を22億ドル強で売却する合意に署名した。更に今後4年間で10.1%の株式をピーターセングループに売却するとともに、20%の株式を株式市場で売却することが予定されている。
21日、政府はエネルギー効率利用計画を発表した。夏時間の導入や、省エネ電球への切り替え、公共施設での電力消費の削減などが盛り込まれている。
26日、夏時間を導入する法律が成立した。今夏は12月30日から3月16日まで夏時間が適用される。
(2)物価・賃金
4日、7年振りに公共交通料金を引き上げることが発表された。2008年1月1日から20%程度引き上げられる。これにより、今年は27億ペソに上ると見込まれる公共交通部門への補助金を、約6億ペソ削減できる見込みである。
4日、ルストー次期経済大臣は、国内価格の抑制を図るため、輸出乳製品原料の参考価格を1リットルあたり78センターボとすることを発表した。同時に、粉乳に係る輸出税の基準価格を1トンあたり2650ドルから2700ドルに更に引き上げる、乳製品業界に裨益する措置を発表したが、酪農業界は反発し、度々抗議行動を行った。
12日、食券制度廃止法が成立した。企業が職員に対し給与の一部を食券で供与する分を今後20ヶ月内に漸進的に現金支給に切り替えなければならない。現金支給となることで企業側はその分だけ社会保障費や組合費の雇用主負担が増えることになる。企業は1〜4%の負担増、国庫及び労組は13億ペソの収入増の見込み。
28日、政府と酪農業界は、酪農業界の反発が続いていた輸出乳製品原料の参考価格は引き下げず1リットルあたり83センターボとする、粉乳に係る輸出税の基準価格は1トンあたり2770ドルに更に引き上げる、基礎バスケットに含まれる14品目の乳製品価格は維持するとする6ヶ月間の合意に署名した。
各業界で120ペソから3000ペソの年末手当の支給が合意された。
(3)金融・財政
5日、2008年予算法が成立した。
12日、緊急経済法、金融取引税、特別たばこ税をそれぞれ1年再延長する法律が成立した。
26日、レドラド中銀総裁は上院で2008年の金融政策プログラムを説明した。2008年のGDP成長率は7.2%、輸出は約600億ドル、貿易黒字は90億ドル超、インフレ率は7〜11%と予想している。金融政策としては、M2の伸びを18%とすることを目標としている。
27日、政府はクレジットカードでの購入時に3%ポイントの付加価値税を還付する措置を廃止することを決定した。一方、デビットカードについて、現金払いと直接競合するため、5%ポイントの還付を一年延長する。これらの還付措置は、銀行利用の促進と脱税の減少を目的に、デビットカードについては2001年から、クレジットカードについては2003年から導入され、毎年延長されてきたが、減税規模がそれぞれ年間約5億ペソに達するようになったため、一部廃止することにした。
(4)対外関係
3日、政府は、小麦の輸出登録手続きの停止を更に15営業日延長することを決定した。
9日、亜大統領府において南米銀行の設立に関する合意書が、キルチネル亜大統領、モラレス・ボリビア大統領、ルーラ伯大統領、コレア・エクアドル大統領、ドゥアルテ・パラグアイ大統領、チャベス・ベネズエラ大統領により署名された。バスケス・ウルグアイ大統領は10日に署名した。合意書では、南米銀行は加盟国の経済社会開発の融資を目的とすること、本部をベネズエラのカラカス、副本部を亜ブエノスアイレス及びボリビアのラパスに設置すること、加盟国は平等の代表権を有すること、署名各国の経済担当大臣が南米銀行設立協定の作成プロセスを60日以内に終了させるために必要な措置を採ること、南米諸国連合を構成する全ての国に参加を慫慂することが合意されたが、資本金額及び各国の出資金額などの詳細は合意に至らなかった。
18日、メルコスールが域外と締結した初めての自由貿易協定となるメルコスールとイスラエルの自由貿易協定が締結された。
19日、政府は2008年輸出計画を発表した。通商ミッションの派遣、国際展示会への参加、アルゼンチン週間の開催等、764の輸出促進活動が盛り込まれ、タイアナ外相は2008年には600億ドルの輸出が可能だろうと述べた。
26日、政府は、小麦の輸出登録手続きの停止を無期限延長することを決定した。
3.経済指標の動向
(1)経済活動全般
第3四半期のGDP(INDEC発表)は、前年同期比8.7%増、前期比2.8%増となった。国内総固定投資は前年同期比12.8%増、対GDP比率は23.7%に留まった。経済活動別では、金融仲介業が前年比18.8%増、運輸・通信業が同13.7%増などと引き続き高い成長となった。
10月の経済活動指数(INDEC発表)は、前年同月比9.4%増、前月比0.3%増となった。
12月のREM(民間エコノミストの予測の中銀による集計値)の平均では、07年の実質GDP成長率は8.4%、08年は6.8%と予測されている。
(2)消費
(イ)小売
11月のスーパーマーケット売上高(INDEC発表)は、前年同月比23.8%増、前月比3.4%増、ショッピングセンター売上高(INDEC発表)も、前年同月比22.2%増、前月比では1.1%減と引き続き好調だった。スーパーマーケット売上の価格指数が前月比1.8%下落したことが疑問視された。
(ロ)自動車販売
自動車協会(ADEFA)が発表した12月の自動車販売台数は、前年同月比22.2%増、前月比4.4%増と、引き続き好調だった。年間では前年比22.7%増の56万台となり、2006年の46万台を上回り史上最高となった。
(3)工業生産・建設活動
(イ)工業生産
11月の工業生産指数(INDEC発表)は、前年同月比9.7%増、前月比1.2%増と引き続き好調だった。自動車が前年同月比23.3%増、基礎金属が同18.2%増、金属機械が同14.3%増などと好調だった。
11月の稼働率は、前月に比べ1.9%ポイント上昇した。特に、基礎金属が95.8%、石油精製が94.8%と引き続き高かった。
(ロ)建設活動
11月の建設活動指数(INDEC発表)は、前年同月比2.4%増、前月比8.3%増と、引き続き復調した。
(ハ)自動車生産
自動車協会が発表した12月の自動車生産台数は、前年同月比27.6%増、前月比14.7%減と引き続き好調だった。年間では前年比26.0%増の54万台となり、1998年の46万台を上回り史上最高となった。
(4)物価・雇用
(イ)物価
12月の消費者物価指数(INDEC発表)は、前月比0.9%の上昇となり、年間では8.5%の上昇となったが、実際には年間で20%程度上昇したと見られている。
12月の卸売物価指数は、前月比0.5%の上昇となり、年間では14.4%の上昇となった。
REMの平均では、08年の消費者物価指数の上昇率は前年比9.9%と予測されている。
(ロ)雇用・賃金等
11月の給与指数(INDEC発表)は、前月比1.43%増となり、特に公共部門が同1.75%増となった。
REMの平均では、07年の失業率は7.6%、08年は6.8%、07年の給与指数の上昇率は前年比21.95%、08年は同18.31%と予測されている。
(5)金融
(イ)株価指数であるMerval指数はやや低下し、月末には2,152ポイントとなった。カントリーリスク指数であるEMBI+は、月の上旬にやや改善したが、月末には410ポイントとなった。
(ロ)為替レートは、やや下落し、月末には1ドル=3.151ペソとなった。コールレートは、ほぼ横ばいで推移し、月末には9.50%となった。外貨準備高は引き続き増加し、月末には462億ドルとなった。
REMの平均では、07年の外貨準備高は446億ドル、08年は524億ドル、07年の為替レートは1ドル=3.17ペソ、08年は1ドル=3.30ペソと予測されている。
(6)財政
(イ)財政収支
経済省が発表した11月の財政収支は、歳入が前年同月比32.1%増加した一方、一次歳出が同34.3%増加し、一次財政黒字は同16.6%増の19億ペソとなった。しかし、年金制度変更に伴う臨時収入2.8億ペソを除くと、一次財政黒字は前年同月を下回った。
REMの平均では、07年の一次財政黒字は268億ペソ、対GDP比で約3.3%、08年は同305億ペソ、同3.2%と予測されている。
(ロ)税収
経済省が発表した12月の税収は、前年同月比39.0%増の196億ペソとなった。付加価値税収が同37.1%増の6,393百万ペソ、法人及び個人に係る所得税収は同36.6%増の3,915百万ペソ、輸出税収が同106.4%増の2,621百万ペソ、社会保障雇用主負担金が同29.7%増の2,081百万ペソとなった。
この結果、2007年の年間税収は、前年比33.2%増の1,998億ペソとなった。付加価値税収が同33.0%増の637億ペソ、法人及び個人に係る所得税収は同27.5%増の429億ペソ、社会保障雇用主負担金が同33.2%増の242億ペソ、輸出税収が同39.0%増の204億ペソとなった。
REMの平均では、08年の税収は、前年比25.4%増の2,505億ペソと予測されている。
(7)貿易
11月の貿易(INDEC発表)は、輸出が前年同月比32%増の5,422百万ドルとなった一方、輸入が同35%増の4,384百万ドルとなった結果、貿易黒字は同21%増の1,039百万ドルとなった。輸出は、大豆等の油糧種子、大豆粕等の食品工業くず、大豆油等の食用油、軽油・ガソリン等の燃料が増加した一方、原油、銅鉱、乳製品、石油ガス等は減少した。輸入は、農業・金属等への中間財、航空機・発電機・農機具等の資本財、オートバイ・テレビ等の消費財、自動車等の部品、乗用車、軽油・電力等の燃料が増加した。
REMの平均では、07年の輸出は前年比18%増の547億ドル、輸入は30%増の444億ドル、08年はそれぞれ11%増の609億ドル、17%増の520億ドルと予測されている。